2006年03月13日
動物用医薬品ツラスロマイシンの残留基準設定、 飼料及び飼料添加物の成分規格に関する省令改正、 抗菌性物質の重要度ランク付けに関する意見を提出しました
食品安全委員会が意見を募集していた「動物用医薬品ツラスロマイシンの残留基準設定」「ヒトの健康に影響を及ぼす細菌に対する抗菌性物質の重要度ランク付け」、農林水産省が意見を募集していた「飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する一部省令改正」について、日本生協連安全政策推進室長名で意見を提出しましたので、紹介します。
2006年1月18日
内閣府食品安全委員会事務局評価課内
「動物用医薬品(ツラスロマイシン)に係る食品健康影響評価に関する審議結果」意見募集担当様
ツラスロマイシンの残留基準設定に係る
食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての意見
日本生活協同組合連合会 安全政策推進室
室長 鬼武 一夫
〒150-8913 東京都渋谷区渋谷3丁目29番8号 コーププラザ
電話:03-5778-8109
1.発がん性試験を実施していない場合の評価要件について
ツラスロマイシンは発がん性試験が実施されていません。しかし、遺伝毒性試験の結果とマクロライド系抗生物質のひとつであるエリスロマイシンに発がん性が認められないとの試験結果から、発がん性試験を欠いていてもADIの設定は可能と判断されています。
このように何らかの試験結果を欠いている際に、申請者へデータを要求するのか、もしくは申請者から提出された他のデータや関連薬剤の情報からADIを設定するのかということについて、現在は明確な判断基準が示されていません。提出されたデータが評価要件を満足するものかについてその都度議論する方法では、評価の一貫性を維持できない可能性があります。
以上のことから、発がん性試験を欠いている場合にADIを設定できると判断する条件について、明確にしてください。
2.微生物学的ADIの算出について
ツラスロマイシンの微生物学的影響について、最も感受性の高いBifidobacteriumのMIC50からJECFAの算出式を用いて0.004 mg/kg体重/日のADIが求められていますが、今回はこれに、糞便成分への結合等による抗菌活性の低下(1/10程度)を考慮して、最終的に微生物学的ADIを0.04mg /kg 体重/日程度であるとしています。
しかし、JECFAの算出式はこの式で完結したものであり、得られたADIについて係数を適用することの前例はありません。ヒト腸管内における抗菌活性低下の影響を考慮する場合には、JECFAのADI算出式におけるバイオアベイラビリティの数値に当てはめて算出すべきであると考えます。
今回のツラスロマイシンのように、腸管内での糞便成分との結合等による抗菌活性低下に関する知見をADIに反映させた事例はみられず、またEMEAの評価においても採用されていません。この事例が、今後同様な知見が得られた場合の前例となることから、数値の設定根拠、判断基準について明確にしてください。
3.VICHのガイドラインについて
微生物学的影響に関する記述においてVICHガイドライン36が引用されていますが、食品安全委員会ではこれまで微生物学的ADIについてJECFAの算出式を採用してきました。今後、食品安全委員会がVICHガイドラインに沿って評価を実施する意向か、考え方をお聞かせください。
2006年2月7日
内閣府食品安全委員会事務局評価課内
「薬剤耐性菌の食品健康影響評価」意見募集担当様
食品を介してヒトの健康に影響を及ぼす
細菌に対する抗菌性物質の
重要度のランク付けについて(案)についての意見
日本生活協同組合連合会 安全政策推進室
室長 鬼武 一夫
〒150-8913 東京都渋谷区渋谷3丁目29番8号 コーププラザ
電話:03-5778-8109
○はじめに
抗菌性物質のランク付けの作成は薬剤耐性菌の評価の前進であると考えますが、耐性菌を巡る状況は深刻さを増し、緊急の対応が必要な課題です。家畜等への抗菌性物質の使用について、予防的措置も含めて、評価を進めてください。
1.薬剤に関する情報を補足してください
今回示されたランク付けは薬剤耐性菌の影響を評価するために用いるものであり、個別の薬剤ではなく、系統別に整理したことは適切であると考えます。しかし、各系統に属する薬剤名についての記述がなく、一般消費者にとってわかりにくいものになっています。このランク付けの有用性を高めるために、示された系統における代表的な薬剤名と臨床における適応症、またその系統の獣医領域での使用の有無や重要性について、WHO報告書のように情報を付記してください。以上によって、このランク付けの利用価値を高めることにつながると考えます。
参考
WHO: Critically Important Antibacterial Agents for Human Medicine for Risk Management Strategies of Non-Human Use, Report of a WHO working group consultation15 - 18 February 2005, Canberra, Australia
2.モニタリング・サーベイランスを推進してください
今後は、評価指針に基づいて、薬剤の使用による耐性菌の発生評価、暴露評価、および今回の抗菌性物質のランク付けを用いた影響評価を実施し、薬剤耐性菌の食品健康影響評価が進められるものと理解します。このうち、発生評価において重要な位置を占める薬剤耐性菌のモニタリング・サーベイランスの実施を推進してください。薬剤耐性菌の発生評価には、ヒト、畜産動物および環境中における薬剤耐性菌と、ヒトおよび獣医領域における抗菌性物質の動物種ごと、薬剤ごと(少なくとも系統ごと)の使用量などについて広く情報を集め、分析する必要があります。現在モニタリングについて、畜産領域については動物医薬品検査所、ヒト臨床領域では感染症研究所などで実施されていますが、まだ必ずしも十分なものではなく、またこれらを総合的に評価することも必要です。
耐性菌の発生状況や、ヒト、動物における抗菌性物質の使用量や使用対象種、またそれらの相関について、食品安全委員会の協力のもと、各省庁間で連携を図り、緊急的テーマとして取り組むとともに、総括的な情報提供を推進してください。
3.ランク付けの見直しに柔軟に対応してください
今回のランク付けには、新たな知見が明らかには適宜、基準およびランク付けを見直すことが示されています。薬剤の評価や薬剤耐性菌を巡る状況は刻々と変化します。特に日本における状況に合わせて機敏に対応してください。
2006年1月27日
農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課飼料安全基準班 御中
飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令の一部改正(案)についての意見
日本生活協同組合連合会 安全政策推進室
室長 鬼武 一夫
〒150-8913 東京都渋谷区渋谷3丁目29番8号 コーププラザ
電話:03-5778-8109
○はじめに
食品における残留農薬等基準のポジティブリスト制度の導入に伴い、個々の飼料作物に対して残留農薬基準を省令として設定することは、動物飼料の生産、食品の生産、流通など、農場から食卓に至るまでのフードチェーンのすべての段階において安全性を確保し、国民の健康を保護するという観点から前進であると考えます。
動物飼料については、BSE発生に関連して肉骨粉の使用が大きな問題となりました。食品の安全を確保する上で、飼料の成分規格の設定が重要であると同時に、飼料全般について適切なコミュニケーションを図ることもきわめて重要です。
食品安全行政の更なる推進を図るため、省令の改正(案)について以下のとおり意見、質問を提出いたします。
○包括的意見
1.基準設定の趣旨および経過を明確にしてください
今回の改正省令案には、ポジティブリスト制度の導入に伴って飼料中の残留農薬基準を設定するに至ったことが記載されていますが、薬剤の選定、設定基準値の根拠をはじめ、この間の経過や審議内容が示されていません。
国民、消費者へ向けて、省令の改正を検討した趣旨および経過、また基準の設定対象である60成分を選択した観点について、わかりやすい解説をしてください。
2.厚生労働省と十分な協議をしてください
食品の安全性を確保し、国民の健康を保護する観点からは、フードチェーンのすべての段階において一貫した管理が求められます。特に飼料中の成分規格設定は、食用動物の安全性を担保する上で重要と考えます。現在、生産資材は農林水産省、食品については厚生労働省と監督官庁が分かれているため、適正な管理の実施には両省間の十分な連携が必要です。飼料と食品における成分規格や基準値設定の考え方をはじめ、フードチェーンのすべての段階で一貫した管理が行われるよう、厚生労働省と十分に協議をしてください。
3.残留基準設定の目的を明確にしてください
食品中に残留する農薬等のポジティブリスト制度導入の第一の目的は、国民の健康保護であることが記載されています。よって、これに伴って設定される飼料の成分規格についても同様の目的を明記すべきです。飼料安全法の第1条には、本法律の目的のひとつが公共の安全の確保であることが記載されていますが、今回の改正省令の告示にあたっては、残留基準の設定の目的が国民の健康保護、食品の安全性の確保であることを明確にしてください。
4.基準設定の方法と対象物質の考え方を明確にしてください
飼料中の残留農薬基準の設定作業は、食品衛生法における残留農薬等のポジティブリスト制度の導入と同じアプローチを採用し、食品と飼料の間で整合性を図るべきであると考えます。ポジティブリスト制度の導入に際しては、国内でリスク評価を実施されていない薬剤について、Codex委員会や海外で定められた基準を暫定基準として採用しました。飼料の残留農薬基準についても、国際機関等で科学的評価に基づいて定められた基準値を採用し、広く規制の対象とすべきであると考えます。
また、ポジティブリストとは独立した作業として、カビ毒、重金属などの汚染物質も飼料及び食品の安全性を確保する上で重要な管理項目です。カビ毒に関しては国際的にアフラトキシンB1以外の物質についても基準設定の検討が進められています。これらの成分規格についても整備が必要です。
5.水産用飼料についても規制を進めてください。
今回は畜産動物の飼料に対しての基準値であることが示されていますが、日本の食生活では養殖魚が重要な位置を占めており、水産用飼料についても同様の規制が必要であると考えます。また、EU規則(Regulation (EC) No 396/2005)においては環境保護の必要性も述べられており、特に水産用飼料においてはこのことが重要です。以上のことから、水産用飼料に関する規制についてお示しください。
6.対象飼料の定義を明確にしてください
規制の対象となる配合飼料、混合飼料について定義が曖昧です。これらの飼料に使用する原料やその配合、由来などについて明確にしてください。
7.監視体制を整備してください
現行の残留基準値は配合飼料や乾牧草など、動物が摂取する飼料そのものについて設定されています。今後は飼料作物と飼料いずれかについての規制となり、これまで規制のなかった飼料作物について、監視について新しい体制が必要です。飼料中の農薬、およびカビ毒の残留状況ついて、モニタリングの計画をお示しください。
8.食品安全委員会への諮問を行ってください
リスクアナリシスの原則に照らすと、残留基準の設定には薬剤ごとの科学的評価が必要です。また、今回設定する基準値の妥当性については、畜産物への残留によりヒトの健康への影響が懸念されることから、リスク評価機関である食品安全委員会への諮問が必要です。
本省令は、ポジティブリスト制度導入に合わせ、5月に施行されることになりますが、ポジティブリスト制度と同様、基準設定の考え方及び個別の薬剤の基準値について妥当性の評価が必要です。今後、改正省令案について、食品安全委員会に健康影響評価を依頼してください。
9.個別の基準に関する意見
個別の物質の基準については、平成17年12月21日開催の、第13回農業資材審議会飼料分科会安全性部会の配布資料に基づいて質問・意見を述べさせていただきます。
- 乾牧草、飼料の基準値について、どのような考え方、手順に基づいて設定されたか、その過程、根拠を説明してください。
- フィプロニル、フェンバレレート、ヘプタクロル、リンデン(γ-BHC)は食品衛生法で穀類の残留基準が設定されています。飼料作物について基準値が設定されていない理由をお示しください。
また、DDTの意図的な使用の可能性は低いと考えられますが、輸入飼料原料を含め、飼料作物に残留する可能性があることから、原料となる作物に基準を設定することが望ましいと考えます。Codexで定められている穀類の基準値を採用してください。ディルドリンおよびアルドリンについても飼料作物に基準値を設定してください。 - カルタップ、チオシクラムおよびベンスルタップについては、1995年JMPRにおいてADIが取り下げられています。登録保留基準があり、ポジティブリストには掲載されていますが、「検出してはならない」とするか、もしくは基準値の設定には安全性の評価が必要であると考えます。
- エチオンは、Codexの基準値は取り消されていることから、「検出してはならない」とすべきであると考えます。
- アフラトキシンB1についても配合飼料だけではなく、原料となる飼料作物について基準を定めるべきであると考えます。FAO調査(Worldwide regulations for mycotoxins in food and feed in 2003)によると、大多数の国において、乳用牛用飼料に対して5 μg/kgの基準が設定されています。国内における乳用牛用飼料の基準として、この基準値を採用すべきであると考えます。
また、アフラトキシンB1について、幼令期を除く動物の飼料を対象として、多くの国で20μg/kgの基準値が設定されています。国内においても同等以上の基準値を設定すべきであると考えます。