2005年9月21日
厚生労働省医薬食品局御中
「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」の見直しに対する意見
標記「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項(案)」(以下「注意事項案」)に関して、以下の通り意見を申し上げます。
(1)消費者にわかりやすい注意喚起を行なうこと
注意事項案では注意喚起の対象魚種が細かく指定され、魚種毎の摂取目安が示されています。しかしこれは煩雑で消費者にわかりにくく、実効性に疑問があります。消費者にわかりやすい内容での注意喚起をされるよう要望します。
妊婦については、暫定規制値の対象外魚種のうち淡水魚を除く魚種について、以下のような注意喚起をすべきと考えます。
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特にバランスのよい食生活を心がけ、偏食をしないようにすること。 |
○ |
マグロ・カジキ類、サメ類、深海魚類、鯨類を食べ過ぎないようにすること。 (具体的には、週80g以下を目安とすること。鯨類のうちイルカ類は特にメチル水銀を多く含むので、摂食を控えること。)
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(2)小児及び一般人に対しても具体的な注意喚起を行なうこと
注意事項案では、小児及び一般人については「魚介類をバランス良く摂取してください。」と書いているだけで、十分な注意喚起がなされていません。小児及び一般人についても、具体的に目安を示すべきと考えます。
食品安全委員会から発表された「魚介類等に含まれるメチル水銀に係る食品健康影響評価(案)のポイントについて」では、「通常の食生活をしている一般集団に対しては従来の評価を適用」すると書かれています。日本人の毛髪中水銀濃度は大部分が10ppm以下であるものの、少数ながら20ppmを超える人もいるという報告(Yasutakeら:Tohoku J.Exp.Med.,199,161,2003など)があることから、従来のPTWIの3.3μg/kg/weekを超えたメチル水銀の摂取をしている人もいると考えられます。したがって、一般人に対しても注意喚起を行なうべきと考えます。
また、現時点ではデータが少ないものの、中枢神経系が発達段階にある小児が、成人と比較してメチル水銀に対する感受性が高いことは十分に予測されることです。さらに、小児は体重あたりエネルギー摂取量が成人の2倍以上であり、体重あたりメチル水銀の摂取量も成人の2倍以上と予想され、過剰摂取されやすい条件下にあります。
したがって、小児及び一般人について、以下のように注意喚起すべきと考えます。
(小児に対する指導)
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小児には、バランスのよい食生活を心がけ、偏食をしないよう指導すること。 |
○ |
マグロ・カジキ類、サメ類、深海魚類、鯨類を食べ過ぎないように指導すること。 (具体的には、週80g以下を目安とすること。鯨類のうちイルカ類は特にメチル水銀を多く含むので、できるだけ摂食を控えること。)
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(一般成人)
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マグロ・カジキ類、サメ類、深海魚類、鯨類を食べ過ぎないようにすること。 (具体的には、週160g以下を目安とすること。鯨類のうちイルカ類は特にメチル水銀を多く含むので、できるだけ摂食を控えること。)
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(3)メチル水銀のリスクについて誤解されるような表現をしないこと
注意事項案では、「この胎児への影響は、例えば音を聞いた場合の反応が1/1,000秒以下のレベルで遅れるようになるようなもので、あるとしても将来の社会生活に支障があるような重篤なものではありません。」と書かれていますが、メチル水銀の健康影響が非常に小さいものであると誤解される可能性があります。メチル水銀の影響は摂取量・蓄積量によって異なり、摂取量が多ければ、より重篤な影響が出る可能性があります。
この「反応が1/1,000秒以下のレベルで遅れる」というのは、フェロー研究において中枢神経の発達を見るために行なわれた試験項目のひとつである聴性誘発電位の遅れを取り上げたものに過ぎません。フェロー研究では結論として、言語能力、注意力、記憶力に影響が見られたと報告されていることをわかりやすく説明すべきと考えられます。
なお、この記述は食品安全委員会の「魚介類等に含まれるメチル水銀に関する食品健康影響評価についてのQ&A」の記述を受けて書かれたものと考えますので、食品安全委員会にも修正を求めます。
(付)鯨類の表示について
鯨類のうち特に歯鯨類(イルカ類)のメチル水銀濃度は高いことが知られています。一方、鯨肉類の名称表示については2000年に定められた生鮮食品品質表示基準で義務付けられていますが、水産庁の調査で、現在でも市販鯨肉類の多くで歯鯨類を髭鯨類として表示するなどの不適切な表示があると報告されています。
鯨肉類の摂食は地域的に偏りはありますが、メチル水銀に関する注意喚起を行なっても表示が誤っている場合、妊婦が歯鯨類の肉を摂食する可能性もあります。そのようなことを防止するために、関係省庁と連携して表示の是正に当たるとともに、注意喚起の仕方をご検討いただくよう要望します。
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