2005年4月13日
地球温暖化問題の解決は、京都議定書への取組みで終了するものではなく、長期的に温室効果ガスの大幅な削減が必要です。そのため、京都議定書目標達成計画は、京都議定書の目標を確実に達成する計画であると同時に、2013年以降の温室効果ガスの削減と脱温暖化社会への方向を国際的にも、国内的にも明確に示すことが必要です。
その中で、京都議定書の第1約束期間の2008年~2012年が目前に迫っている今、政府や自治体、産業界、NGO、市民が、自らの課題として京都議定書の目標達成に取組むことが求められており、地球温暖化問題への切実感が国民にしっかりと伝わる京都議定書目標達成計画とすることが必要です。そうした意味では、国民各層への呼びかけと地域で具体的に実施されていくことが大切です。
日本の温室効果ガスの排出量は、1990年比で7.3%(2002年度)増加し、民生部門は家庭部門+28.8%、その他業務部門+36.7%と大幅に増加しており、京都議定書の目標達成のためには民生部門の取組み強化が必須です。
日本生協連は、京都議定書目標達成計画(案)に関して、自らの問題として受け止め、(1)生協の事業からの温室効果ガスの排出量の削減・抑制、(2)生協組合員や職員、消費者のくらしの見直し活動を推進・支援し、家庭での効果ある取組みの推進、(3)政府、自治体、事業者、NGOとの共同や横断的な取組みに積極的に参画し、全国や地域の取組みの前進に寄与する、という姿勢のもとで、民生・運輸部門対策の強化への貢献をしていきたいと考えています。
日本生協連は、京都議定書で約束した日本の温室効果ガス削減目標の達成と中長期的な地球温暖化防止に向けて全力で取組むとともに、今回、政府の地球温暖化対策推進本部から出された京都議定書目標達成計画(案)に対して、以下の通り意見を申し述べます。
1.京都議定書の目標達成に向けた民生・運輸部門の対策の強化
日本生協連は生協の主な活動範囲である民生部門と運輸部門を中心に、以下の取組みの強化を提言するとともに、生協が率先して取組むことで温暖化防止の京都議定書の目標達成と中長期的な地球温暖化防止に寄与します。
(1)事業者の温暖化防止自主行動計画の策定・公表と、「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」への自主的な参加促進
日本経団連が取組んできた温暖化防止自主行動計画は、事業者の自主的な取組みとして温室効果ガス削減に積極的な役割が期待できます。日本経団連に参加していない業界団体や事業者も、その業界や事業者の活動にあった自主行動計画の策定を進めることが有効です。また、「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」では、対象となる事業所に加え、オフィスビルを分散している事業者、子会社と合算した事業者単位、チェーンストア、ファミリーレストラン、コンビニなど同一ストアブランドの店舗を合算した事業者単位などに自主的な参加促進を図ることで、幅広く温室効果ガスの削減の取組みがすすむことが期待できます。
(2)店舗やオフィスでの省エネ効果と投資回収を両立させるマネジメント対策の促進
省エネ設備機器の効果と投資回収に関するデータを国や業界団体で整備し、店舗やオフィスの設置者による省エネ設備機器の導入促進をはかることが必要です。例えば、日本生協連の調査・実験では、2000年代初めの店舗に比べて、省エネ対策によって新店では20%~25%程度の省エネができる見込みがあることがわかっています。また、店舗やオフィスのマネジメントのあり方でエネルギー使用量が変わることも実践的に明らかであり、省エネのマネジメントを徹底する事も大切です。省エネ法で対象にならない店舗について、大規模小売店舗立地法の指針で省エネ対策を推進することも検討すべきです。さらに中長期的に、大幅な省エネ効果が上げられる設備機器の開発が進むよう、業務用機器へのトップランナー基準も必要です。
(3)流通事業者による環境に配慮した事業運営の推進
流通事業者は、生産者と消費者を商品で結び、消費者の環境に対する願いを生産者に伝える一方で、商品の環境負荷削減の努力を消費者に伝え、商品を通じたCO2削減をすすめる役割があります。そうしたことから、例えば詰替え商品や簡易包装商品の積極的な普及は、プラスチックの量を削減し容器包装がゴミとなった時の焼却によるCO2削減につながります。また、容器包装類のリサイクルの回収拠点となることやレジ袋の削減なども通じて、間接的にCO2削減に寄与しています。
(4)エコドライブの徹底と車両の燃費向上
市街地の走行では、急加速の抑制、法定速度走行、アイドリングストップなどのエコドライブで、5~10%程度の燃費向上効果があることがデジタルタコグラフや車載機を使った調査でわかっています。こうしたエコドライブを支援する機器の改善と低価格化による普及や、運転管理の取組みが重要です。また複数の荷主の荷物を同じトラックで運ぶ共同配送や、配送ルートの効率化によるトラックの走行距離の短縮など、事業効率の向上がCO2削減に有効です。
車両からのCO2排出を削減するために、メーカーが燃費効率の良い車両開発を一層すすめることが必要です。ハイブリッドの車両が乗用車だけなくトラックも一部のメーカーで発売されていますが、積載量1.5tの開発など車種の拡大や機能向上、低価格化をすすめ、車両燃料の削減をはかることが必要です。
(5)家庭での省エネ活動と国民的な運動
家庭部門のCO2排出量増加の要因として、世帯数の増加や家電製品の保有台数の増加、大型化がすすみ、高齢化などによる冷暖房需要の増加があることなどとされています。
世帯数は、1990年に比べて2002年19%増加し、2010年には23%程度増える予測になっています。また日本生協連の調査では、子供が独立した後のシニア層では、家族人数が減っても電力消費量は削減できていません。そうした点では世帯数の増加が電気使用量の増加につながることから、世帯当たりのエネルギー使用量を減らすことが課題です。また、日本生協連の調査では、家庭での電力使用は冬がピークであり、暖房と強い関連があることから、家の断熱対策や暖房機器の効率向上は有効な対策になります。
家庭での工夫による省エネ対策のメニューはさまざま出されていますが、生協が取組んでいる「電気ダイエット」で、参加した世帯の過半数が前年比で節電を達成し、10%以上削減している方も30~40%くらいいることからも、各家庭での実行が鍵になっています。学校、地域、事業所での環境教育の推進による省エネ知識の普及や国民的な運動を大きく広げ、また省エネによる経済的メリットが今以上に国民に実感できることが必要です。住宅の省エネ性能の向上、機器の省エネ性能の向上などを急速に普及させるための法規制や補助の仕組みを大胆に進めることが必要です。
今年度に環境省が進める予定のインターネットを使った「我が家の環境大臣」や、京都議定書目標達成計画で示されている国民運動や情報提供の取組みを積極的に推進することを期待します。
(6)地域の中でのCO2排出量削減
都道府県温暖化防止活動推進センターや地域協議会、また、民間主導による全国的なキャンペーンも行われ国民の関心を高める役割を果たしており、これらの活動を広げることが必要です。地域住民の協力も得て、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー施設の設置や、作られたエネルギーを有効活用しようと企業や団体も増えています。公共交通機関の積極的利用や通勤へのマイカー使用の抑制などを、地域の中で推進することもCO2削減の上で大切です。
自治体の温暖化防止の委員会やイベントやキャンペーンへの参加、自治体や地域の諸団体での一緒の取組み、地域での植林や森林保全活動などの促進、都道府県や市町村がおこなう環境教育や普及啓発活動を広げることで地域の中でのCO2排出量削減を推進することが必要です。
2.森林整備、京都メカニズムへの確実な対応
京都議定書の目標達成のためには、エネルギー起源のCO2を中心に温室効果ガスを国内対策で削減することが必要ですが、それだけでは-6%が達成できないことは現状では明らかであり、森林の吸収源対策と京都メカニズムへの対応を確実に実施することが必要です。
(1)森林整備による吸収源対策
京都議定書では日本は3.9%の森林吸収量が認められていますが、現状の森林整備のままで推移すると2.6%程度になるとされています。森林管理の拡充と国産材の積極的な活用が指摘されていますが、3.9%の森林吸収量に見合った確実な対策として推進することが必要です。そのことは、京都議定書対策はもちろん、国土保全や自然環境保全の面からも意義あることです。
また民間団体・企業による植林や森林整備などの活動を積極的に推進するために、事業者が植林や森林整備などに取組んだ場合は、「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」の中で吸収量として評価され、記載できるようにすることも含めて検討をすすめるべきです。そのためにも、国や自治体と事業者の植林や森林整備に関する契約の枠組みを検討することも必要です。
(2)京都メカニズムの確実な活用
京都メカニズムについては「補足的」とする原則を踏まえながら、確実に活用することが必要です。京都メカニズムは、日本が京都議定書の目標を達成するためには現実的には不可欠であり、CDMを中心に確実にクレジットを取得できるよう国は積極的に取組むことが必要です。そのためにも国は、事業者の京都メカニズム活用への取組みに支援を強め、また大規模なものだけでなく中小規模のプロジェクトにも支援をすすめ、多くの事業者や民間団体が取組めるようにすることが必要です。
また京都メカニズムの活用は、温室効果ガスの排出量の急増が予想される中国やアジアの諸国に対して、日本の先進的な環境技術を提供しCDMとして活用することで、これらの国々の温室効果ガス削減に貢献し、京都議定書の第1約束期間の2013年以降の地球全体での温室効果ガスを削減し、環境立国としての日本の国際的評価を高めることにつながります。こうしたことを進めながら、アメリカや中国、発展途上国が参加し得る国際的な温室効果ガス削減の体制を実現することが必要です。
なお、こうした趣旨からは、排出削減努力の裏づけのいらない余剰排出枠であるホットエアーの取扱いについては慎重にすべきです。
3.京都議定書目標達成計画で見直すべき事項
京都議定書の目標達成に向けた民生・運輸部門の対策の強化と、森林整備、京都メカニズムへの確実な対応に関する課題以外について、以下のように考え方や取組みの見直しが必要と考えます。
(1)長期的な視点からの日本の国際的・国内的メッセージ(決意)
地球温暖化問題の解決は、京都議定書の第1約束期間の2012年で終了するものではなく、長期的に温室効果ガスの大幅な削減が必要です。目標達成計画でも、中長期的な温室効果ガスの大幅削減と脱温暖化社会の実現の必要性に言及していますが、その決意をより明らかにするために、例えば2013年以降への長期的な数値目標を掲げることを検討すべきです。イギリスでは2050年に向けて温室効果ガスを60%削減することを国内目標にしています。
こうした決意が、温暖化防止を促進する国際的なメッセージとして世界に影響を与え、同時に日本国民に対する脱温暖化の新しい社会建設へのメッセージとなります。
(2)新たなエネルギー政策の検討と、新しい技術開発
原子力発電は、何よりも安全性を最優先することが大前提です。原子力発電の施設利用率は1995年度以降は80%を超えて推移していますが最も高かった1998年度でも84.2%であり、トラブルから2002年度は73.4%、2003年度は59.7%でした。京都議定書目標達成計画(案)での施設利用率は87~88%と極めて高く、仮に、原発に何らかのトラブルが発生すれば、京都議定書目標達成計画が瓦解することになり、目標達成が危ぶまれます。
太陽光発電、風力発電、バイオマス、太陽熱利用などの再生可能エネルギーの利用については、大綱で2010年に一次エネルギーの3%を占めることを目標にしましたが、その達成は不確実となっています。再生可能エネルギーを電力会社に購入を義務づけることや系統連携対策を強化することが必要です。また、太陽熱利用はコストパフォーマンスに優れ伝統的に活用されてきたエネルギーであり、改めて普及をすすめることが必要です。
また、事業者や家庭で再生可能エネルギーの施設を設置することを促進する制度を継続的に実施することや、発電事業者や電力の大量需要の事業者が電力の一定部分を再生可能エネルギーとすることなどが必要です。これらも含めて、再生可能エネルギーの一次エネルギーに占める割合の目標を、より高く設定すべきです。
(3)あらゆる政策手法の一つとして環境税を具体化
環境税については、「真摯に総合的な検討をすすめていくべき課題」としていますが、産業界の反対の中で明確にできないままになっています。環境税は国民が負担していることを実感することが必要ですが、導入が遅れるほど高い税率が必要になります。導入が遅れることで国民の過度な負担にならないように、早期導入によりCO2排出削減につなげることが必要です。
京都議定書目標達成計画(案)では、「あらゆる政策手法を総動員して」と書かれており、あらゆる政策手法の1つとして、炭素税の具体化をすすめる必要があります。
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