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日本生活協同組合連合会オフィシャルサイト

2005年03月24日

食品安全委員会の抗生物質「ナタマイシン」の 食品健康影響評価に関する審議結果(案)に ついての意見を提出しました

内閣府食品安全委員会添加物専門調査会は、抗生物質「ナタマイシン」について食品健康影響評価を行い、その審議結果について広く意見・情報を3月23日を締切りとして募集しました。

日本生協連(本部:渋谷区、小倉修悟会長)では、食品安全委員会が意見募集を行った「ナタマイシン」の食品健康影響評価に対し、消費者の立場から、食品添加物として指定するにあたっての考え方、耐性菌確認のためのモニタリングの実施、ADI(1日摂取許容量)設定のための追加試験実施の必要性、諸外国の使用実態と有用性の把握を含めた健康影響評価の実施などを軸とする意見を提出しました。

以下のような意見を3月23日に食品安全委員会に提出しましたので報告いたします。

2005年3月23日

内閣府食品安全委員会御中
 

ナタマイシンに係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)
についての意見・情報の募集についての意見

日本生活協同組合連合会
 

抗生物質(ナタマイシン)に係る食品健康影響評価に関する審議結果について、意見・質問を述べさせて戴きます。
 

1. 抗生物質を食品添加物として指定するにあたって、考え方を示してください。

食品添加物としてナタマイシンが指定されると、抗生物質が食品添加物として認可される、わが国最初のケースとなります。すなわち、食品衛生法が定める「食品一般の成分規格」の「1.食品は抗生物質を含有してはならない」に続くただし書き(6.に定める成分規格に適合するもの)に、食品添加物としては初めて該当する事例になります。食品中の抗生物質の残留には多くの消費者が不安を抱いています。こうした新たな規制変更に際しては、個別の品目を評価する前に、その基本的な考え方や安全性評価指針、管理の手法について示した上で、広く国民の意見を求めるべきです。

2. 指定に際しては、耐性菌出現の確認のためのモニタリングについて具体的な手法を策定し、実施すべきであると考えます。

抗生物質であるナタマイシンについては、耐性菌に関する情報が現時点では十分に揃っていません。確かに、貴委員会による評価の中で言及されているように、ナタマイシンのようなポリエンマクロライド系抗生物質は、その作用機序に照らしても、細菌または放線菌に対しては不活性であり、細胞膜にステロールを含有する真菌に対してのみ抗菌活性を有するであろうと考えられます。こうした特徴に基づけば、今後耐性菌が出現して蔓延する(ナタマイシンに対して耐性を有する真菌が高頻度に選択される)可能性は低いかも知れません。

しかし、同じくポリエンマクロライド系抗生物質であるアムホテリシンBに対しては、近年耐性菌の増加が指摘されています(D.Ellis,Amphotericin B:Spectrum and resistance. J.Antimicrobial Chemothrapy,49(2002)他)。また、アムホテリシンBとナタマイシンとの交差耐性に関しては「ある」「ない」双方の報告があり、現時点でまだ十分な知見が得られているとは言えません。

抗生物質への耐性菌出現は医療上の深刻な問題に発展しており、動物用医薬品としての抗生物質の使用については、近年国際的にも慎重な対応が求められています。ナタマイシンの場合、動物用医薬品として、さらにヒトの抗真菌症治療薬として使用される抗生物質であり、食品添加物としての使用に対しては、対象食品がチーズに限定されるとしても、特に慎重な対応が求められます。

わが国でナタマイシンの使用を認めるならば、事前に耐性菌出現の確認のためのモニタリングについて具体的な手法を策定し実施すべきであると考えます。

今回の審議結果(案)においては、「新たに知見が得られた場合には、必要に応じて再評価を検討する必要があると考える」と記されていますが、「新たに知見が得られた場合には、必要に応じて」ではなく、添加物として指定する段階から実施する必要があると考えます。耐性菌が広がってしまってから検討するのでは手遅れです。

3. ADIの設定根拠があいまいであり、追加試験が必要であると考えます。

貴委員会ではナタマイシンのADIをJECFAと同様な考え方にもとづき、0.3mg/kg体重/日と導いていますが、この根拠になっているのは、わずか10名の真菌症患者における所見データであり(Newcomer,et al.,1960)、無作用量を200mg/kgと判定するデータとしてはきわめて不十分であると考えます。しかも、この論文で著者は、600~1000mg/kg/日のナタマイシンの経口投与で共通して食欲不振、悪心、下痢、嘔吐がみられると述べていますが、200mg/kg/日を24日間服用した患者や50~250mg/kg/日を13日間服用した患者の場合にも同様な臨床症状が記載されています。この点にも注目して無作用量を200mg/kg/日と評価したのでしょうか。EUのEMEAではこのヒトのデータは評価できないとしてイヌの2年間反復投与毒性試験からナタマイシンのADIを設定しています。確かに、このイヌの試験にも不備があるため、設定の根拠としては十分といえませんが、既存のデータに基づいてADIを設定するのであれば、安全確保の立場からもイヌのデータを採用すべきです。

また、安全係数にも問題があります。上述したように信頼性に乏しいデータをADI設定の根拠とする場合、最近では追加安全係数を採用するのが一般的になっていると思いますが、貴委員会ではこの点を考慮していません。

ADIは最新の明確なデータに基づいて設定されるべきであり、例えば別の保存料であるナイシン(1月26日にナタマイシンに続いて評価が実施されています)の場合などは、貴委員会として「ADI設定のための追加試験として90日間の反復投与試験を要求する」という結論になっています。その一方で、ナタマイシンについては、「内容的に不十分ではあるが、ヒトのデータがあるからそれを採用する」ということにはなり得ないと考えます。ナタマイシンについても適切な安全性試験の追加を要求すべきです。

4. 厚生労働省に対し、諸外国におけるナタマイシンのチーズへの使用実態等について調査を要請し、有用性などの情報も的確に把握した上での健康影響評価を実施すべきであると考えます。

今回の審議結果(案)の冒頭部分には、「ナタマイシンは50カ国以上でチーズ等ヘの使用が認められている」と記載されていますが、例えば「これまで輸入できなかったがナタマイシンの新規指定により初めて輸入可能となるチーズはどの位(どこの国のどのようなタイプのものが)あるのか」、「わが国でチーズを製造する場合にはナタマイシンはどの程度有用性があるのか」といった具体的な情報無くしては、消費者は、抗生物質のナタマイシンが食品添加物として使用されることの有用性を理解できないと思われます。

貴委員会として「食品健康影響評価」を実施する上でも、チーズ製造における技術的な面での必要性の有無や使用実態、国内での有用性といった視点は重要な要素の一つである思われますので、厚生労働省に対して、諸外国におけるナタマイシンのチーズへの詳しい使用実態等について調査を要請し、有用性などの情報を的確に把握すべきであると考えます。

ナタマイシンに限ったことではありませんが、平成14年7月に「国際的な整合性」に照らして選定された46品目の食品健康影響評価については、機械的に作業を進めるのでなく、国際的な食文化やその相違などについても国民にわかりやすく示し、理解を得ながら進めるべきであると考えます。昨今、添加物に対しては多くの消費者が不安を感じており、また、日本人の食生活をみると全般に混乱や歪みが見られるようです。こうした状況下において添加物を新規に指定するにあたっては、「食の安全性」を中心に見据えながら、必要性や食文化といった面も合わせて、ていねいに評価し説明する姿勢が国に求められていると思われます。

 
【お問い合わせ先】

日本生協連 安全政策推進室 電話:03-5778-8109