内閣府食品安全委員会では、厚生労働省・農林水産省の諮問を受けて国内のBSE管理措置に関するリスク評価が進められています。日本生協連では、これまで全国で開催された意見交換会等で消費者の立場から意見を述べてきましたが、同委員会プリオン専門調査会で進められているリスク評価に関して、以下の要請書を提出して、慎重な評価、対策の強化のための検討を行なうよう要請しました。
<提出した意見書>
2005年1月27日
食品安全委員会委員長 寺田雅昭 殿
日本生活協同組合連合会
専務理事 伊藤敏雄
BSEのリスク評価についての要請書
日頃食品安全行政にご尽力いただき篤く御礼申し上げます。貴委員会プリオン専門調査会(以下、調査会)では目下のところBSEの国内管理措置に関する評価を進めていらっしゃいますが、弊会では、先に「中間取りまとめ」で示された、BSE検査とSRM除去で相補ってBSEの食品安全性が確保されているという点には基本的に同意しつつ、これまでいくつかの点について意見を申し上げてきました。「中間取りまとめ」を受けた一連の意見交換会も終わり、厚生労働省・農林水産省の諮問を受けて調査会での議論が始まっていますが、先頃提出された「我が国における牛海綿状脳症(BSE)対策に係る食品健康影響評価(座長・座長代理案)」(以下、座長・座長代理案)の内容及び調査会の議論に関して、弊会では以下の点を要請いたします。
1.SRM除去について
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○ピッシング廃止について
座長・座長代理案ではピッシング廃止について、「具体的な目標を設定した実施計画を作成し、できる限り着実かつ速やかに実行されるべきである。」としていますが、現時点でピッシング廃止の障害になっている問題点の報告を厚生労働省に求め、問題の解決を図ることが必要です。ピッシング廃止の障害は、気絶した牛の脚を懸吊する際に刺激に反応して反射運動で脚が跳ねることがあるという作業上の安全問題であり、一部のと畜場では、作業者が牛に対して十分な距離をおき、反応の消失を確かめながら懸吊する等の対応が取られています。スペース的問題またはラインの速さなどの関係で、そうした対応が困難なと畜場もあるようなので、施設の改善あるいは安全に懸吊が行なえる新しい装置の開発が急務と考えます。そのような具体的な対策を要請してください。
○背割り前の脊髄除去について
背割り前に吸引等により脊髄を除去する対策が実施されていると畜場は3/4程度にとどまっているので、完全実施を要請してください。現在行なわれている脊髄の吸引除去等の方法は、と畜場によって多少異なり、除去率も異なると考えられます。より効率的に脊髄を除去できるよう、除去方法の改善を要請してください。
○スタンニングの改善について
スタンニングの方法によっては脳組織が食肉を汚染する可能性があると指摘されています。現行のスタンニング方法に関してリスク評価を行ない、電撃法等のより安全な方法への改善について検討を促してください。
○扁桃の評価について
扁桃は現在SRMに含まれていますが、舌扁桃は除去されておらず、食用の牛舌に回っています。舌扁桃のリスクについて評価を行ない、必要な管理措置を要請してください。
○腸の評価について
OIEコードの変更によりSRMに加えながら、日本で取り入れられていない腸に関しては、現時点では評価に必要な十分なデータはないと考えますが、評価に必要なデータを取るように管理部局に要請し、評価計画を立ててください。
2.BSE検査について
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○検査技術の改善について
座長・座長代理案では、「検査技術に係る研究開発の推進について」で検査法の開発とその導入について述べられていることを弊会としては評価しておりますが、生前検査もしくはより感染初期の牛での検査を追求するため、より高感度の検査法の開発状況ならびに感染初期の牛の体内プリオン分布に関する研究に関して、管理部局からの報告を逐次受けて到達点を明らかにし、研究を促進してください。BSE検査に係る管理措置に関しては、その展望を踏まえて、改善方向を指し示してください。
○一定月齢以下の牛の管理変更について
BSE検査に関しては、検出限界があることは当然ですが、月齢で区切ることに科学的根拠があるか否かは議論のあるところです。「中間取りまとめ」に至る調査会の議論では、検査の限界を月齢で区切ることは科学的に困難という意見が大勢であったと認識しております。もし月齢で区切る場合でも、最も若齢で検出された21ヶ月齢に安全率を掛けて算出するのが科学的手法と考えます。諮問の提出理由にもなっている「中間取りまとめ」の記述の科学性を改めてご議論ください。
○BSE検査に係るリスク評価について
座長・座長代理案でなされている20ヶ月齢以下の牛のリスク評価は、「中間取りまとめ」におけるvCJDリスク評価と同様、多くの仮定的な数値に基づく計算で、科学的な信頼度は低いと考えますが、一旦数字が示されれば、数字が一人歩きするおそれがあります。プリオンは増殖性の病原体で、ごく微量でも感染性を有することから、摂取量によるリスクの定量的な評価は困難と考えられます。ハザードが大きく、不明なリスクが存在する場合の評価、報告は慎重を期してください。
3.飼料規制について
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○飼料規制後の感染牛について
飼料への肉骨粉使用が禁止されて以降に産まれた牛に、少なくなっているとはいえ、内外でBSEの発生が確認されています。このことを、可能な限り検証してください。
○輸入飼料原料の検査について
農林水産省では輸入飼料のうち配合飼料・混合飼料の届出・検査体制を整えつつありますが、海外では植物性飼料から高率で動物性蛋白が検出されており、日本でも輸入粗飼料から動物の骨が発見されるなどの事例があることから、植物性飼料原料についても定期的な調査を行なうよう要請してください。
○農家段階での規制の徹底について
農家段階で飼料規制を徹底するために、地方農政局又は都道府県の指導員巡視による監視指導が挙げられています。そうした監視指導に加えて、生産者団体等を通じてBSEに関わる教育や飼料管理に関わる教育を定期的に行なうとともに、飼料原料のトレーサビリティを強化し、農家が原料を把握して給餌できる仕組みを作るなどの方法も取り入れて、農家段階での管理を徹底するよう要請してください。
4.その他
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○羊・山羊に関する対策について
羊・山羊のSRMは2002年4月以降は指導、2004年2月以降は義務化して除去されていますが、検査はサーベイランス検査しか実施されていません。SRMの範囲、検査の範囲、飼料の規制などの管理措置に関して、リスク評価を行なってください。
○米国産牛の輸入再開問題について
貴委員会における米国産牛に関するリスク評価は、国内管理措置に関する評価が終了した後に管理部局からの諮問を受けて行なうとされています。その一方で、20ヶ月齢という数字が既定のものとして扱われ、すでに進んでいる日米交渉では月齢の確認方法だけが焦点とされ、米国側から提案された肉質による判定方法が俎上に乗っています。
しかし、米国産牛の輸入再開のためには、SRM除去の実態、サーベイランス等の検査の精度、飼料規制など、米国の安全管理全体の評価が必要不可欠であると考えます。特に日本向けの食肉からはSRMを完全に除去するとの意向が米国側から示されていますが、米国内で30ヶ月齢以下の牛のSRM及びこれを含む可能性のあるARM(先進的回収肉)が米国産の加工食品に使用されて輸入されることを評価してください。また過去発生したミンク脳症とBSEの関連性、北米の西部で発生しているCWDの健康リスクなどを含めて、総合的な評価を行なってください。
○「非発生国」のリスク評価について
BSEの発生が報告されていない国々の中に、過去英国や欧州、北米から肉骨粉等を輸入している国はいくつかありますが、その中には、肉骨粉規制やBSEサーベイランスが実施されていない国もあるようです。そうした国から輸入される食品について、リスク評価を行ない、必要な規制を要請してください。
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