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日本生活協同組合連合会オフィシャルサイト

2004年10月06日

動物用医薬品「塩酸ラクトパミン」の 健康影響評価に意見を提出

 内閣府食品安全委員会(本部:中央区、寺田雅昭委員長) の食品安全委員会動物用医薬品専門調査会は、2004年8月27日の第15回同調査会において審議された「動物用医薬品:塩酸ラクトパミン※の食品健康影響評価」について、国民から意見を広く募集したうえで、食品安全委員会に報告することとし、10月6日を締め切りとする意見を募集しました。

 これに対して、日本生協連(本部:渋谷区、小倉修悟会長)では、「なぜこの影響評価が、最も感受性の高いイヌではなくサルのデータなのか、仮にヒトに近いというのなら毒性を評価する際の考え方を明確にしてください。」となどを主旨とする意見を提出しましたので、ご案内します。

生体内でβ作動薬として作用し、様々な効果を及ぼす。牛、豚の増体重、飼料効果の改善、赤身肉の割合を増加させるとして、諸外国で飼料添加物として使用されている。

☆食品安全委員会の健康影響評価審議資料はこちら(PDF)
 

<提出した意見>

2004年10月5日

内閣府食品安全委員会御中
 

塩酸ラクトパミンに係る食品健康影響評価に関する
審議結果についての御意見・情報の募集についての意見
 

法人名:日本生活協同組合連合会
所在地:〒150-8913 東京都渋谷区渋谷3-29-8
電話:03-5778-8109
 

 塩酸ラクトパミンに係る食品健康影響評価に関する審議結果について、意見・質問を述べさせて戴きます。


 

1.エンドポイントの選択と一日摂取許容量(ADI)設定について
 一般的に動物実験の結果からADIを求める場合は、最も感受性の高い動物で得られた無作用量(NOEL)を基に算出されている。しかし、本報告書では最も感受性の高いイヌを用いず、サルのデータを用いている。この点をどのように理解すべきであるか。仮にヒトとサルが類似しているという理由であるならば、動物実験はサルについてのデータを要求すべきであると考える。食品安全委員会におけるADI算出の原則について明確な回答をお願いしたい。
 
2.一日摂取許容量(ADI)設定について

  • 毒性試験の考え方がヒトのみの結果、あるいは近似する動物種で良いとする根拠を示されたい。
     
  • もし、ヒトのデータがあれば良いとするのであれば、その例数はどの程度を設定するのか。本データでは6例しかなく、この程度でよいとするのか。
     
  • 心臓疾患リスクを考える場合の係数を5とする根拠は何か。
     
  • 本試験におけるNOELを5mg/ヒトであるが、被験者の平均体重75.5kgで補正した理由はなぜか。

 
3.遺伝毒性について

  • 塩酸ラクトパミンは、in vitroで染色体異常を誘発することが示唆されたが、in vivoの3種類の試験で陰性を示した。食品安全委員会はこれらを総合的に考察した結果、塩酸ラクトパミンは生体にとって問題となるような遺伝毒性はないものと判断している。
     
    遺伝毒性の結果についてin vivo試験の結果を優先させた理由はなぜか。更に報告書22ページにはin vitro試験結果について、さらに解決すべき問題として残されていると記載されている。この点についても説明をお願いしたい。
     
    当会はin vitroで染色体異常を示すことから、塩酸ラクトパミンが非遺伝子傷害性発がん物質であると判断できないと考える。

 
4.催奇形性について

 報告書21ページにはVICH(動物用医薬品の承認審査資料の調和に関する国際会議)の発生毒性ガイドライン及び農水省課長通知から、ラットでまず試験を実施することを推奨し、この結果、催奇形性を誘発する投与量が特定でき、さらにその試験で得られたNOELがADI設定の根拠として用いられない場合は、第2の種おける試験は必要ないとされている。

 当会は、催奇形性に係る国際的なガイドラインを調査し、次のような結果を得た。OECDの化学物質テストガイドラインではげっ歯類でラット、非げっ歯類としてうさぎを推奨している。EUの食用動物における残留動物用医薬品の設定のためのガイドランでは、2種類の動物種を用いるべきであり、通常ラット及びウサギを用いるとされている。IPCS(国際化学物質安全性計画)の環境保健クライテリアでの食品中の残留農薬の毒性アセスメントに係る原則、8.3.3.2の催奇形性の項目では、ラット、マウス、うさぎを使用し、種特異性を考慮するためにさらに1種類以上の動物を用いるように記述されている。以上のように、国際的ガイドラインではいまだ2種類以上の動物を用いるべきであると勧告されている。当会は、毒性試験における催奇形性の項目は2種類以上の動物種を用いることが要件であると考える。食品安全委員会は農水省通知に踏襲するだけでなく、追加試験としてうさぎを行うこと、または2種類以上の動物を用いた試験を要求すべきである。当会では最終結論の出ていないガイドラインについてあくまで参考とし、催奇形性の項目ラットの高用量で奇形が発生しているという点を重大に受け止め、更なる試験を求めるべきであると考える。
 

5.発がん性について

  • げっ歯類の子宮あるいは卵巣間膜の平滑筋腫の発生は、β作動薬に広く認められている作用である。このうち、 medroxalol, sulbutamol, terbutaline について、平滑筋腫の誘導がβ受容体拮抗薬である propranololにより抑制されたとする報告があり、塩酸ラクトパミンの長期投与でげっ歯類に認められた子宮平滑筋腫の発生は遺伝子傷害によるものではないと考えると記述されている。
     
  • しかし、当会は塩酸ラクトパミンについてこの抑制の確認を行ったものではないこと、塩酸ラクトパミンが非遺伝子傷害性物質であるとは認められないこと、以上の2点から塩酸ラクトパミンの長期投与でげっ歯類に認められた子宮平滑筋腫の発生は遺伝子傷害によるものではないと結論付けることに無理があると考える。

 
6.JECFA(1993)の報告と再評価について

 1993年JECFA(WHO Foodadditives Series No.31)では再評価として以下の項目を要求している。この点(上記と重複する部分もあるが)について食品安全委員会でどのように評価したかを知りたい。

  • 小核試験のようなin vivoの遺伝毒性試験
     
  • 本剤の薬理学的特性に関する十分な調査
     
  • 本剤により引き起こされる作用に対するβ1及びβ2受容体の関与
     
  • 本剤の薬理効果について最も感度の高い測定法、感受性の高い動物種を確立するための十分な根拠
     
  • ヒトに対する薬理学的なNOELを設定する項目の正当性と有用性
     
  • 経口投与時のヒトと実験動物におけるβ受容体刺激時の薬理学的なパラメーターの検討
     
  • 関連するすべての作用について、その発現と最大薬効を明らかにする動物実験の適切な観察時期・期間の設定
     
  • 残留した畜産物を長期に摂取すると予測されるので、ヒトに長期にβ受容体薬を投与した際の薬効以外のすべての作用の検討

参考文献

1;OECD Guideline for the testing of Chemicals -Proposal for updating guideline 414, adopted: 22nd January 2001

2;Vol.8, Notice to applicants and for guidance veterinary medicinal products, June 2003, European Commission

3;International Programme on Chemical Safety, Environmental Health Criteria 104, Principles for the toxicological assessment of pesticide residue in food (WHO) 1990