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日本生活協同組合連合会オフィシャルサイト

2004年07月16日

「介護保険制度見直しに関する日本生協連の要望書」を 厚生労働省に提出しました

現在、厚生労働省では、介護保険制度開始後5年を目途とした見直しの論議を行っています。社会保障審議会介護保険部会(部会長:貝塚 啓明 中央大学教授)では、8月はじめには部会としての取りまとめを行う予定です。これを受けて、9月には見直しの具体化に向けて、介護制度改革本部が改正案をまとめ、年末にかけて関係各方面に調整を行い、年明けの国会に改正案を上程する予定となっています。

日本生協連(本部:渋谷区、小倉修悟会長)では、この審議情況に合わせて、地域生協の居宅サービス事業所のヒアリングと福祉政策推進委員会(委員長:山本邦雄 おおさかパルコープ理事長)での検討を経て、「生活援助」の重視、ケアプランの質の向上等に力点をおいた「介護保険制度見直しに関する日本生協連の要望書」を取りまとめ、7月15日に厚生労働省に提出しましたのでご案内します。

「要望書」の骨子は以下のとおりです。

  1. 利用者の個別性を重視し、適正な「サービスの選択」を保障することが大切です。 
  2. 居宅介護支援事業に今必要なことは、ケアプランの質の向上です。チームケアの確立やインフォーマルケアの位置付けが求められます。
  3. すべての介護事業従事者への教育・研修を早急に充実させることが必要です。
  4. 「地域包括ケア」、「小規模多機能サービス拠点」の具体化と推進の際には、適正な市場形成が育まれる環境整備が必要です。
  5. 介護保険制度と支援費制度の統合には国民的な理解と合意が重要です。
  6. 保険財政の十分な情報公開が必要です。また、自己負担率の引き上げには反対です。

<取材・問合せ先>

 日本生協連 広報(木戸・木船)  福祉事務局(益田・尾崎)
 電話:03-5778-8106  電話:03-5778-8107

<提出した要望書>

厚生労働省老健局
老健局長 中村秀一 様

日本生活協同組合連合会
専務理事 品川尚志
 

介護保険制度見直しに関する日本生協連の要望書
 

介護保険制度は、介護の社会化、介護の市場化をめざして4年前にスタートしました。この間、介護サービスの利用者は2倍に増加し、サービスの提供にあたる福祉専門職は1.5倍に伸びました。居宅サービス事業者の存在がまちの中で普通に見ることができるようになり、制度開始以前と比べると、地域のありように確かな変化を感じています。介護の社会化、市場化は確実に前進しています。このことは積極的な評価に値するものと考えます。

介護保険制度の理念である、利用者本位や自己決定を実現させるためには、国民の間で制度の理念が共有されること、サービスを担う事業者等がその理念のもとに適正なサービスを提供することが大切なことと認識しています。そのためには、国および保険者は、すべての情報をありのままに提供し、すべての国民が議論を行い、サービスのみならず制度のあり方についても、みずから決定するという市場を築いていく必要があります。しかし、そのための情報提供が十分ではなく、説明責任も十分に果たされているとはいえない状況にあると言わざるをえません。介護保険制度の見直しにあたっても、国民一人ひとりに正確で十分な情報提供がなされ、納得のもとに見直しが行われることが望まれます。また、制度の理念を実質化するとともに、適正な市場の形成にむけた努力が払われる必要があります。

生協は、介護保険制度のもとで、一人ひとりの個性が生きる介護がなされ、利用者と家族が地域で安心してくらしを営むことを支援する制度として安定して機能することを望みます。今回の見直しにあたって、そうした観点から、以下の点について要望いたします。

1. 利用者の個別性を重視し、適正な「サービスの選択」を保障することが大切です。

  1. 訪問介護では「生活援助」を重視することが必要です。
    • 要支援・軽度の要介護者の給付見直しが議論されていることから、この間、地域購買生協では、この範囲の利用者の事例について、ヒアリングをおこないました。ヒアリングを通して分かったことは、「生活援助」の役割は大切であるということでした。
    • ヘルパーとのコミュニケーションを通して、あるいはヘルパーといっしょに家事を行うことによって、利用者は安心し、自立への意欲につながることを再認識しました。とくに一人暮らしの利用者にとって他者とコミュニケーションが行われ、社会参加ができることは、「とじこもり」を防ぎ、そのことによって引き起こされる身体・生活機能の低下を防ぐものとなっています。
    • 要支援・軽度の要介護者に早期に「生活援助」を導入し、自立を喚起する支援を行うことによって、介護度を維持あるいは改善をしています。要支援・軽度の要介護者に、「生活援助」の適切な導入がなされなければ、重度の方向への悪化に転じる恐れもあります。

    (別紙、生協が行った「要支援、要介護1の改善・維持事例調査」を、参考までに添付します。なお、福祉用具の利用に関しても合わせてヒアリングを行いましたので、福祉用具に関する事例も含まれています。)

  2. 要支援、要介護1の方への訪問介護サービスは不可欠です。介護予防プログラムに置き換えるのではなく、軽介護度の方の選択肢の一つとして介護予防プログラムを位置付けることが必要です。
    • 要介護度の悪化を防ぎ、生活機能の向上を図るための介護予防プログラム等の新たな選択肢が提案されています。選択肢の幅を広げるということでは理解するところです。ただし、上記(1)の観点から、「生活援助」は、軽介護度の利用者にとってサービスの選択肢の一つ、あるいは介護予防プログラムに取り組む利用者の在宅生活を整える基本的なサービスとして位置付け、重視する必要があります。多様なプログラムも本人の選択と自立への意思があってこそ、効果があがるものと考えます。
  3. サービスの適正化は重要な課題ですが、利用抑制はあってはならないことです。
    • この間、とくに要支援や要介護1の利用者への訪問介護サービスあるいは福祉用具貸与の不適切について指摘がされています。これによって一部の保険者が利用の抑制を行う、あるいは不正確な新聞報道により利用者自身が抑制しなければならないと判断するといったことが起きています。
    • 不適切なサービスはもちろん是正されなければなりません。しかし、不適切なサービスを規制するために、適切なサービスまで抑制するような一律の規制にならないよう、また個別ケアを重視するよう、留意する必要があります。適正化で必要なことは抑制化ではなく、利用者の自立支援に向けたケアプランが作成されることや、福祉用具貸与の適切な利用が行われることであると考えます。また、適正なサービスを形成していくためには、マイナス事例を示すことよりも、改善事例を普及することの方がサービスの適正化に資すると考えます。
  4. 単独型の短期入所生活介護の事業確立システムをつくり、地域の中に拡充していくことが必要です。
    • 短期入所生活介護は、在宅介護の三本柱の一つに位置付けられていますが、このサービスについては他の訪問介護や通所介護に比べて、利用者の選択が保障されているとはいえません。利用ニーズが高いにもかかわらず、サービスの量が十分ではないといった現実があります。在宅での介護を支えていくためには、短期入所生活介護が必要とする人の身近にあることが大事であり、拡充を図っていくことが必要です。
    • このサービス量を地域の中に増やすためには、この単独型でも運営可能となり事業として確立できるシステムが必要です。利用定員や報酬単価の見直しを行い、協同組合や民間事業者がこの事業へ参入できるよう、必要な措置を講じてください。
2. 居宅介護支援事業に今必要なことは、ケアプランの質の向上です。チームケアの確立やインフォーマルケアの位置付けが求められます。
  1. ケアプランの質の向上には、居宅介護支援事業の損益確立が求められます。
    • 居宅介護支援事業はその特性に応じた専門性の発揮が望まれます。現在、居宅介護支援事業の公平・中立について議論がされ、利用者本位のケアプランの質が問われています。ケアプランの質の向上を図るためには、その事業単独での損益が確立されることが重要であると考えます。専門性に見合った適切な報酬単価に引き上げ、損益を確立させることが必要です。
  2. チームケアを確立することが大切です。
    • ケアマネジャーがサービス担当者会議を開催し、保健、医療、福祉によるチームケアが実質化するよう環境を整備する必要があります。とくに、医師の参加に苦労しているというのが現場の意見です。国や保険者の施策で環境整備をすすめることが必要です。
    • この間、地域購買生協の介護事業に従事するケアマネジャー、サービス提供責任者の協力により、居宅介護支援計画と訪問介護計画の連携について研究しました。専門職同士の共同作業によるサービスの整合性や、相互のフィードバックによる適切なサービスの変更などが図られることで、それぞれの計画が充実していくことを確認したところです。このことから、この両者のみならず、利用者に係わる関係者のチームケアを実現していくことが大切であると考えます。
  3. ケアプランの中にインフォーマルケアの位置付けが求められます。
    • 利用者の自立支援やくらしの安心にとって、介護保険のサービス以外に、家族はもちろん近隣やくらしの助け合いの会などのボランタリーな支援がケアプランに組み込まれることが望まれます。しかし、現状ではインフォーマルな地域資源の有効な活用は十分ではありません。
    • 利用者は24時間、365日の生活をしています。その生活の継続性を支える視点から、インフォーマルなケアは必要と考えます。とくに一人暮らしや高齢者のみ世帯には必要です。ケアプランへのくらしの助け合いの会などのインフォーマルケアの組み込み事例を調査したところ、緊急時の支援、入退院に関わる支援、介護保険サービスのない日の生活支援、あるいは自立を励ますメンタルな支援、果ては災害時の支援まで多様なケアを行っており、インフォーマルケアは、利用者の生活の安定に貢献しています。加えて、介護保険給付費用が削減された事例もありました。ケアプランの中にインフォーマルケアが位置付くよう、そのあり方を見直す必要があります。
    • また、くらしの助け合いの会のようなインフォーマルセクターが地域に一層拡充するよう、国や自治体等の積極的な支援が求められます。

3. すべての介護事業従事者への教育・研修を早急に充実させることが必要です。

  • 介護保険分野における従事者は、この4年間に1.5倍に増加し、2005年度で増加数は56万人と推計されています。しかしながら、この急増した従事者の経験はまだ4年です。現任研修なども不十分との指摘もあり、バーンアウトする者が後を絶たないと言われています。このような状況を踏まえ、教育や研修を早急に充実させることが必要です。
  • 介護保険サービスは制度のもとに運用されることから、利用者には、社会福祉法人であろうと非営利法人、民間事業者であろうと、一定以上の水準が確保されたサービスを利用する権利があります。居宅サービスの分野では民間事業者の参入がすでに50%になりました。とくに民間事業者の従事者のスキルアップを重視しなければなりません。民間事業者および従事者を対象として、研修ガイドラインを示す、定期的に実のある研修会を開催するなど、教育・研修の仕組みや機会を、国や保険者の責任で充実させることが必要です。
  • 保険者によっては定期的に研修会等を実施しているところもありますが、ほとんど実施していないところもあり、その格差が大きいといった実態があります。そうした格差を是正していくことも必要です。
4. 「地域包括ケア」、「小規模多機能サービス拠点」の具体化と推進の際には、適正な市場形成が育まれる環境整備が必要です。
  • この間の厚生労働省の研究によって、「地域包括ケア」「小規模多機能サービス」等の概念が生まれ、推進されようとしていることについて、今後に期待するところです。
  • このような新しい概念を具体化していくにあたっては、今後、民間事業者の参入がなくてはならないと思われます。この場合、サービスの選択幅が広がることを歓迎しつつも、一方で、新たな不適正なサービスが生まれないような仕組み、適正な市場を形成するような環境整備が必要と考えます。
  • 一人暮らしや高齢者世帯が増加していくなかで、高齢者の「住まい」の問題は重要です。グループホームや有料老人ホームの急増も、そうした問題の反映と考えることができます。高齢者住宅についても積極的に推進し、小規模多機能サービス拠点とのリンクなど意識的な展開が望まれます。

5. 介護保険制度と支援費制度の統合には国民的な理解と合意が重要です。

  • 住み慣れた地域で、安心して生活をおくることは、誰にとっても共通する願いです。世代を超えあるいは障害の種別を超えた総合的な生活支援制度をつくっていくことが重要であると考えます。介護保険制度と支援費制度の統合については、障害者福祉に固有の就労や住まいなどの支援についての基盤整備が遅れている実態があること、それらをマネジメントする体制が不明確であること、在宅サービスを提供する事業者・従事者をどのように確保するのか、また、統合への具体的なプロセスも示されていないことなど、判断するには困難な状況に私たちは置かれています。そうした諸条件をどのように、いつまでに整えるのか、統合にあたっての骨格を早急に情報公開し、当事者の合意を一番に重視し、国民的議論を展開することが重要です。

6. 保険財政の十分な情報公開が必要です。また、自己負担率の引き上げには反対です。

  • 日本生協連が行った「2003年税・社会保険料しらべ」によると、2003年は、社会保険料の収入に占める割合がこの1年で8.82%から9.54%に上昇しています。同「全国生計費調査」では、ここ数年、家計収入は減少を続けています。こうした状況の中で負担する保険料については、国民からの理解が得られるように、保険財政の十分な情報公開に努めること、国や保険者の説明責任が十分に果たされることが重要です。
  • 利用者負担について、財政制度等審議会の「平成17年度予算編成の基本的考え方」では、「利用者の自己負担率の2~3割への引き上げによりコスト意識を喚起するべきである」として、自己負担割合の見直しを要望しています。介護保険利用者は、上記のような家計の状況もあり、サービスの量を限度額の5~6割程度に抑えているのが実態です。しかも所得の低い方々にその傾向は顕著です。このような中で、自己負担率の引き上げは現状ではすべきではないと考えます。