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日本生活協同組合連合会オフィシャルサイト

2004年06月11日

日生協、国際会計基準審議会
「協同組合の出資金は負債である」に異議を表明

日本生協連(本部:東京都渋谷区、小倉修悟会長)では、先頃、国際会計基準審議会(IASB)が「協同組合の出資金は負債である」とする国際会計基準書第32号を設定したことに対し、日本の生活協同組合を代表して「協同組合の出資金は資本である」として強く異議を表明しました。

日本生協連では、国際会計基準審議会(IASB)の基準書が示された段階で、ただちに、小倉会長の私的諮問委員会「出資金に関する会計基準問題検討委員会」(委員長:片山 覺:早稲田大学教授)を設置し内容について検討しました。この委員会の答申に基づき、2004年4月に、後掲のアピールをIASBに提出するとともに、ICA(国際協同組合同盟)に送付しました。そして、2004年4月23日~24日、北京(中国)において開催されたICA理事会・監査管理委員会の場でこのアピールについて多くの賛同を得ることができました。今後は世界の協同組合や国内の協同組合と連携をとりながら、この問題について粘り強く主張していきます。

IASBに提出したアピール

2004年4月16日
 

国際会計基準書第32号「協同組合の出資金は負債である」への異議を申し立てます
 

日本生活協同組合連合会
 

国際会計基準審議会(IASB)が「協同組合の出資金は負債である」とする国際会計基準書第32号を設定したことに対し、日本の生活協同組合は強く異議を申し立てる。

IASBは『いかなる制限条件があろうと償還されることを約されているものは負債である』という観点に立ち、協同組合の出資金は組合員たる資格の自主的または他因的喪失によって組合員に償還されることから、出資金は負債であるとしている。

負債性を持つ金融商品を厳正に定義することは、国際資本市場において資金調達や金融取引を行うグローバル企業の財務情報を、統一した財務諸表で投資家等に的確に開示することを目的とする国際会計基準の立場からは認容されるとしても、それを生活協同組合という組織特性の点でも経営理念の点でも営利企業とはまったく異なる事業組織にもそのままの形で適用することには、多くの問題点があると言わざるを得ない。

IAS32で要求された負債の区分基準に生活協同組合が強く反対し、「協同組合の出資金は資本である」と主張する主たる理由は以下の通りである。

(1)出資金は、組合員の権利と義務を表す。

出資金の拠出は組合員の義務である。拠出することにより、組合員には自益権(事業利用権、剰余金配当請求権、残余財産分配請求権など)と共益権(議決権、選挙権など)が付与される。つまり、組合員は生活協同組合に出資することにより、出資者となり,利用者となり、そして事業の運営者となる資格を得るのである。

また、生活協同組合が解散するときの残余財産は、払込済み出資額に応じて組合員に分配される。出資金に見られるこれらの特性は、負債では考えられないことである。

(2)出資金の返還には、一定の制約が課されている。

生活協同組合は、組合員の加入・脱退の自由を原則として保証している。出資金には出資期間や満期日はなく、出資金の返還は組合員の減資申請や脱退申請にもとづき払込済み出資額を限度として行われる。出資金の返還は、指定された予告期間の経過後に所定の手続きを経て行われることになっている。返還に対するこうした制約は、負債では考えられないことである。

(3)出資金は、リスクキャピタルである。

組合員は、出資金額を限度に生活協同組合の事業に対し責任を負わなければならない。生活協同組合の事業が悪化し債務超過になった場合は、組合員は拠出した出資金額を限度として債務を負担する義務を負っている。これは組合員の有限責任を規定したものであり、出資金はリスクキャピタルであることを明らかにしている。こうした特性は、負債では考えられないことである。

(4)出資金の可変性は協同組合の基本原則に根ざし、出資金は消費生活協同組合法上の法定準備金の積立基準の対象とされている。

協同組合の基本原則である加入・脱退の自由の原則は、出資金の可変性によって保証されている。出資金の可変性を認めなければ、組合員の自由な加入と脱退は不可能となり、生活協同組合の基本理念が侵されることになる。このような基本原則が、広範な消費者を生活協同組合に惹きつけ、結果として出資金の長期間の累増を実現してきたのである。

また、出資金は消費生活協同組合法上の法定準備金の積立基準の対象とされている。法定準備金は資本充実の観点から積み立てが義務づけられているものであり、資本の不足を補い財務の安全性を確保することを目的としている。法定準備金の積立基準とされている以上、当の出資金それ自体は、当然に自己資本として位置づけられるものである。

(5)出資に対する配当は、当初から約束されたものではなく、剰余金処分として、総(代)会の議決によって決定される。

出資に対する配当は、出資金を受け入れたときに約束されたものではなく、配当可能剰余がある場合に、総(代)会の剰余金処分の議決において、配当を行うかどうかがその都度決定されるのである。このように、配当の決定は当期の決算終了後となるので、当期の決算数値に計上することはできず、しかも剰余金処分項目なので費用計上されることもない。これに対し、負債のひとつである借入金は、借り入れ契約にともなって利払い義務が確定し、その利子は当期費用として処理される。これらの相違は、出資金と負債を同等の項目として考えることはできない。

(6)出資金を負債とすることは、生活協同組合の利益に反する。

生活協同組合は、出資金=自己資本とする会計制度のもとで消費者組合員自身の組織として内外ともに認められ、1世紀以上にわたって組合員の生活の向上にとどまらず、消費者全体の権利の擁護と向上に貢献する社会的存在として成長してきた。こうした歴史と現実にかかわらず、IAS32にもとづいて出資金=負債とすることは、生活協同組合の所有者が誰であるかを不明瞭にし、生活協同組合のアイデンテイテイを破壊し、生活協同組合を衰退に導くことにつながる危険性を有する。生活協同組合にこのような不利益をもたらす会計基準は、誰もが望まないものである。生活協同組合への出資者=所有者という理解にもとづいて拠出した出資金が、負債として扱われるとすれば、組合員も強い反発を感じることであろう。

われわれは、出資金は生活協同組合の自己資本とすることが、日本の生活協同組合の実態を最もよく表し、かつまた、日本の生活協同組合の未来にとって最もふさわしい会計処理であると確信している。われわれは、以上に述べてきた出資金の諸特性に照らし、IASBに対して、生活協同組合の組合員出資金は自己資本としての性格を備えている旨の文言を、明確にIAS32に盛り込むことを強く要求するものである。

<問合せ先>

日本生協連 広報(木戸・木船)

電話:03-5778-8106