2004年1月27日
厚生労働省 医薬食品局 食品安全部 基準審査課
乳肉水産基準係・残留農薬係 御中
食品中に残留する農薬等の暫定基準(第1次案)に対する意見
法人名:日本生活協同組合連合会
所在地:〒150-8913 東京都渋谷区渋谷3-29-8
電話:03-5778-8109
食品の安全を確保することにより国民の健康の保護を図るために、今回貴職におかれまして食品中に残留する農薬等の暫定基準(第1次案)を作成し、これについて広く意見を募集し、寄せられた意見等に基づき暫定基準を設定するという膨大な作業に取り組まれていることに敬意を表する次第です。
この作業が国民の健康の保護を図るという目的を達成するために、以下の総括的意見ならびに個別具体的事項に関する意見を提出いたします。
なお、本案の日本文の表記と英文表記の間で不整合が見られる部分があります。この部分についても重要であると考え、別紙にて指摘事項を提出いたします。
I .総括的意見
1.暫定基準設定方針の前提として、「国民の健康保護」の主旨の明記について
第1次案中には「現在設定されている残留基準のままでポジティブリスト制を導入した場合、不必要に食品の流通が妨げられることも想定される~」との記述が行われている。しかし、暫定基準設定による規制範囲の拡大に際しては、流通の事情以上に国民の健康保護が確保されることを考慮に入れるべきであり、暫定基準設定の前提として「国民の健康保護」の主旨を明記すべきである。
2.暫定基準設定にあたって遵守すべき基本的なプロセスについて
今回の暫定基準案については、法改正の関係から3年以内に策定するといった限られた条件で行う事が求められている。この膨大かつ極めて重要な作業について、食品安全委員会との緊密な情報・意見の交換なしに、リスク管理機関である貴職のみで完結することは、暫定基準の段階ではやむを得ないと考える。
しかし、暫定基準を定めた後の見直しのプロセスは、リスクアナリシスの原則に沿って実施し、その際には食品安全委員会に対して、リスク評価にあたっての考え方(リスクアセスメントポリシー)を示し、基準設定を予定している農薬等について、リスク評価作業の要請を行うべきである。
併せて、暫定基準の見直し作業計画についても、早急に明示することが必要と考える。
3.暫定基準の作成方法について
第1次案中には、「JMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家委員会)及びJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会)で科学的な評価に必要とされている毒性試験結果などのデータに基づき残留基準を設定している諸外国」という記述がある。しかし、例えば抗菌剤の評価においては、MIC(最小発育阻止濃度)に基づいてADI(許容1日摂取量)を設定する際、JECFAと欧州委員会・食品科学委員会とでは用いる算出式が異なり、また米国・FDA(食品医薬品局)はMIC(最小発育阻止濃度)を用いていない。さらにBST(泌乳促進ホルモン)の事例では、JECFAの結論と欧州委員会・食品科学委員会の結論は異なっている。
従って、今後の暫定基準の見直しに際しては、JMPR及びJECFAが用いるデータに基づいて諸外国が必ずしも基準を設定しているわけではないという点について、充分に調査を実施することを要望する。
4.本来は農薬であるが、日本では食品添加物と規定されている物質について
ポストハーベスト処理に用いられているOPP等は、コーデックスでの設定基準においても農薬としての扱いで規定されている。本来農薬であるはずなのに、日本では食品添加物と規定されている物質は、改めて農薬として分類し直し、今回の暫定基準にも含めるべきである。
また、今回の暫定基準策定作業とは別に、防かび剤などのポストハーベスト処理を含む食品添加物について、考え方の見直しを行うことが必要である。
5.対象品目の選定について
今回の作業は膨大な品目を網羅しているが、BSTやエストラジオール17-βなどの成長促進ホルモン等、諸外国の状況を勘案すると国民の健康に及ぼす影響の面から重要であるにも関わらず、記載のない品目が認められる。これらの物質を用いて生産された食品やその製品について、わが国に輸入される可能性は否定できない。また成長促進ホルモンは、国の内外においても議論の多い物質であるため、記載がなかったことについては、その理由を付して公表することが必要である。
6.別表1「食品中において『不検出』とする農薬等」の扱いについて
別表中に記載された物質は、それぞれ「不検出」という厳格な基準が設けられる為の根拠が存在するはずではあるが、その掲載理由については第一次案中に明記されてはいない。別表に記載された個々の物質について、掲載の理由を明記することが必要である。
また、国内の生産現場等でこれらの物質の使用が法的に認められている場合には、リスク管理機関である農水省との協議により、法的な「使用禁止」措置が早急に図られるよう要望する。
輸入食品等を含め、「不検出」の判断に際しては、欧州連合が設定している「最小要求施行限界値」と同等の検出値を、その拠り所とするべきである。
7.諸外国の基準値を採用することについて
第1次案では、複数ある諸外国の基準値を採用する場合には、その平均値を用いるとされている。しかし、諸外国における個別の基準値とADIとの関係について、正確な情報が得られていない場合、平均値を用いる根拠には乏しいものがある。国民の健康保護という基本的な観点に立ち、厳しく管理している国の基準値を採用すべきと考える。なお、外国の基準を参考にする場合には、その基準が設定されたプロセス・方法等を充分に調査し、その数値が妥当なものか吟味することが必要である。
8.個別基準値を設定しない場合に設けられる一律基準値の考え方について
諸外国(カナダ、ニュ-ジーランド、ドイツ、米国)において、個別基準値を設けない場合に適用される一律基準値の範囲は0.1~0.01ppmである。
第1次案では、一律基準値を適用するという考え方については示されているが、基準の設定値自体については、厚生労働省の考え方は示されていない。
従って今回の一律基準値の設定においては、国民の健康保護の観点から、分析による検証が可能な限り0.01ppmとすべきであり、必要に応じて試験方法の開発を促すべきであると考える。併せて、試験方法の開発促進を怠ることなく実施するよう要望する。
9.暫定基準案の見直しについて
第1次案には、「マーケットバスケット調査による農薬摂取量の実態調査等の結果に基づき、優先順位を付した上で、安全性試験成績を収集し、リスク評価に基づく見直しを行うこととする。」という記述があるが、設定した基準が適切であるか否かを判定する場合には、ある物質の食物由来の摂取量がその物質に割り当てられたADIを超えるかどうかが評価される。そのため、マーケットバスケット調査による農薬摂取量の実態調査等の具体的内容を示すべきである。
また、コーデックス、米国、EUにおける基準設定作業では、影響を受けやすい人口集団、特に小児に対する暴露評価が大きな関心事になっており、日本においてもこの観点からの調査が重要と考える。
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