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日本生活協同組合連合会オフィシャルサイト

2003年02月21日

消費者組織に関する意見

日本生協連(本部:渋谷区、竹本成徳会長)の田中尚四副会長は、国民生活審議会委員をつとめていますが、2月21日(金)に開催された内閣府・国民生活審議会消費者政策部会において、「消費者組織」に関するテーマが検討されましたので、日本生協連として「消費者組織に関する意見」として以下の意見を提出しました。

2003年2月21日

消費者組織に関する意見

日本生活協同組合連合会
副会長  田中尚四
 

1.消費者組織に関する基本的考え方

21世紀型消費者政策における消費者の役割は、商品・サービスの選択や紛争解決への主体的取組みを通じて、自らの権利を守り、実現することにある。消費者がこうした役割を果たしていく上では、消費者教育の抜本的充実や中間報告に盛り込まれた各種の施策を実現したとしても、消費者個人のみの行動では自ずと限界があり、消費者の利益を代表して行動する消費者組織によって個々の消費者の権利実現をサポートしていくことが不可欠となる。

従来から消費者組織は、消費者の利益を増進することを目指して、各種の調査、学習、社会的主張などの活動を繰り広げてきた。こうした消費者組織の活動は、事業者と消費者との情報力、交渉力などに関する構造的格差のもとで、消費者の利益を守る上で大きな役割を果たしてきた。ITやバイオテクノロジーなど科学技術が急速に進展し、グローバル化が進み、事業者と消費者との構造的格差が拡大する一方で、21世紀型消費者政策においては、権利主体としての消費者の役割が一層重視されることになる。こうした中で、消費者組織が担うべき役割は従来に増して重要になっており、消費者重視の社会システムをつくり上げていく担い手としての消費者組織の活動を強化、充実していくこと、そのための支援措置を講じていくことが不可欠である。

消費者保護基本法第17条では、「消費者が消費生活の安定及び向上を図るための健全かつ自主的な組織活動」が促進されるよう、国が必要な施策を講ずる旨が定められている。これを一歩進め、消費者組織の社会的役割を消費者保護基本法の中で積極的に位置付けるとともに、その役割を果たすための施策を講ずることを国や地方公共団体の責務として明確にすべきである。その上で、具体的な支援策を講じていくことが必要であるが、支援のあり方を検討するにあたっては、環境、国際協力などで見られる行政、経済界、NPO・NGOのパートナーシップという考え方を参考にすべきである。これらの分野では、一定の政策目的を実現する上で自立したNPO・NGOの果たす役割が重要であることから、共同の取組みを行ったり、NPO・NGOの自立性を尊重しつつ、資金や情報に関する支援を行う事例が数多く見られる。消費者政策の分野においても、消費者組織の自立性を尊重しつつ、消費者組織に対する権利の付与、自立性を阻害しない形での資金援助、人材育成の支援、公的機関が所有する情報の提供など、具体的な支援策を講ずることが必要である。

2.21世紀の消費者組織に求められる役割

21世紀型消費者政策において消費者組織に求められる役割は、大きく言って、(1)消費者への情報提供と消費者教育、(2)政策形成過程への参画、(3)消費者被害への対応などを通じた市場の監視・チェックという3つの切り口から捉えることができる。後述するような、消費者組織の支援と環境整備に関する公的施策が大前提となるが、上記の役割を積極的に担い得る社会的存在として消費者組織を再構築していくことが、消費者サイドの主体的・実践的課題となる。

(1)消費者への情報提供と消費者教育

21世紀型消費者政策において、自立した権利主体として消費者が行動することが求められることは、この間の議論で明らかにされている通りである。行政、事業者団体など他の組織とともに、そのための情報提供や消費者教育に取り組むことが、21世紀の消費者組織の役割の1つとして位置付けられることになる。消費者組織には、消費者が意思決定を行う上で参考となるような、分かりやすく、かつ専門性の高い情報提供機能が求められる。

商品・サービスの品質・価格・安全性・表示・広告などについての基礎的な情報提供をはじめ、比較調査や顧客満足度調査、約款の調査など、消費者のくらしに役立つような情報を積極的に提供していく必要がある。税制や財政、社会保障制度、公共料金の仕組みなどについても、くらしの視点からわかりやすく情報提供していくことが求められる。情報提供にあたっては、ホームページやEメールなどIT技術を活用することも必要であるが、冊子として出版する場合には、欧米の消費者団体の発行している定期情報誌にも学びながら、収入手段の1つとして活用できるように検討する必要がある。

学習会・講演会などにも積極的に取り組むとともに、消費者団体の活動そのものの持つ学習効果にも着目して、各消費者組織の特色を生かした消費者教育のあり方が多様な形で形成されていくことが期待される。

(2)消費者の政策形成過程への参画

国際消費者機構による『8つの基本的な消費者の権利』の1つに「意見を反映される権利」が掲げられているように、消費者に関する各種の施策の検討にあたって消費者自身が参画することが重視される必要がある。パブリックコメントや公聴会など消費者個人の意見反映の機会も重要であるが、政策形成への参画という意味で消費者組織が果たすべき役割が非常に大きいことは言うまでもない。

21世紀の消費者組織では、行政の審議会・研究会に参加し、消費者の立場から発言を行うほか、パブリックコメントなどに積極的に対応するなど、政策・社会システムづくりへの提言活動を行いながら、意見反映を図っていくことが期待される。

こうした活動を支える人材については、高い専門性をもった専従職員を核としながら、地域での活動経験者や研究者・専門家など幅広いネットワークを形成していくことが求められる。また、消費者問題の国際的な広がりに対応していくという視点からは、海外の消費者組織との連絡・連携も必要であり、国際的な活動への対応も視野に入れたネットワークを形成することが重要である。消費者にとって重要な特別案件については消費者組織間の連携が重要であるが、弁護士・研究者・専門家のネットワークから特設チームを編成し、専門的な見地から消費者組織の審議会対応・政策提言活動についてのバックアップも行えるようにするなど、柔軟な組織のあり方を構想していくことが求められる。

(3)消費者被害への対応などを通じた市場の監視・チェック

21世紀型消費者政策においては、行政による監視・摘発と併せて、消費者被害に関する紛争解決の取組みを含む消費者サイドのイニシアティブによる市場の監視・チェックが重要な意味を持つ。その中で、21世紀の消費者組織は、個々の消費者による被害回復の取組みを支援するとともに、被害の発生や拡大を予防するという役割を担うことが求められる。

現在、消費者被害・トラブルへの対応は消費生活センターによる消費生活相談が圧倒的な役割を果たしている。これは、消費者組織が自らの活動として消費者被害・トラブルへの相談対応に取組みながら、国民生活センターや消費生活センターの充実強化を求めて運動してきた成果である。その一方、消費者組織が上述した役割を果たしていく上では、こうした成果の上に立ち、行政や個人では対応しきれない分野について、消費者被害への対応などを通じた市場の監視・チェック機能をつくりあげていくことが必要となる。

具体的には、各消費者組織のほか、国民生活センター・消費生活センター・事業者団体などと連携しつつ、消費者被害・トラブルの状況を常に把握しながら、団体訴権の行使などを通じて被害拡大の防止や消費者の被害回復の支援を行っていくことが考えられる。諸外国で行われている共同規制方式にならい、事業者団体のガイドラインづくりなどに関与することを通じて、消費者被害・トラブルの未然防止を図っていくことも重要である。人的ネットワークとして、弁護士・研究者や専門家(消費生活相談員・消費生活アドバイザーなど)によるネットワーク形成を進め、消費者被害の実態について日常的な情報収集・分析を行いながら、タイムリーな対応ができるような体制を整備していくことが求められる。

3.具体的施策に関する検討事項

21世紀の消費者組織が2で述べた役割を果たしていく上では、消費者政策における位置付けを明確にするとともに、制度整備や公的なサポートが不可欠である。具体的な制度整備や公的なサポートのあり方を検討する上では、権利、財政、人材、情報という4つの観点が踏まえられなければならない。そうした意味から、以下、(1)団体訴権制度の導入、(2)資金援助、(3)人材育成の支援、(4)情報提供の4点について述べることとする。

(1)団体訴権制度の導入

消費者組織が市場のチェック・監視を行っていく上では、事業者による違法・不当な行為に対して、消費者組織が直接権利を行使することができる仕組みが必要である。こうした権利の裏付けがあってはじめて、消費者組織による市場のチェック・監視活動の実効性を保障することができる。21世紀型消費者政策における団体訴権制度の意義は、こうした文脈から捉えることができる。

1990年代に入ってから、製造物責任法、消費者契約法など、それまで遅れていた民事ルールの整備が進められてきた。民事ルールは従来型の行政による取締法規とは性格が異なるが故に、その内容を消費者-事業者間の現実の関係において実現していくためには、裁判や各種の裁判外紛争機関における手続を通じて、消費者自身が権利を主張していかなければならない。こうした構造のもとで、個々の消費者による取組みだけによってルールの内容を実現していくことは困難であり、消費者組織が消費者全体の利益を代表して権利の実現を図ることができる制度が必要である。

また、消費者被害は、同一の内容での取引が反復、継続して行われることによって拡大していくという性格を持っている。現行の制度では、被害が生じた後で個々の消費者が損害の賠償を求めることは可能であるが、被害の拡大を防ぐために消費者・消費者組織がイニシアティブを発揮することは制度的に保障されていない。団体訴権制度の導入により、消費者組織のイニシアティブによる被害拡大防止が可能となり、このことが悪質業者の淘汰や事業者のコンプライアンスに関する市場からのチェックという役割をも果たすことが期待される。

諸外国においても、ドイツでは不当な約款や法令違反行為、不当な広告に関する差止請求や、消費者組織が債権譲渡に基づいて損害賠償請求をできる制度が施行されており、警告手続や訴訟提起を通じて大きな成果を挙げていると言われている。EUレベルでも1993年に消費者団体の差止請求制度の導入を義務づける指令が出され、各国で制度整備が進んでいる。アメリカでは、団体訴権制度ではないが、多数の被害者を代表して損害賠償請求訴訟を提起するクラスアクション制度がある。アジアにおいても、台湾には消費者組織に対して債権譲渡方式による損害賠償請求訴訟の提起を認める制度が1994年に導入されている。

このように、団体訴権制度の導入は緊急の課題となっており、直ちに導入に向けた具体的な検討に入るべきである。検討にあたっては、各国の制度も十分に参考にしながら、日本の実情を踏まえた制度のあり方を追求することが必要である。

以下、制度検討の上での大きな論点である、[1]団体訴権制度の内容・範囲、[2]適格団体の要件について述べることとする。

[1] 団体訴権制度の内容・範囲

団体訴権制度の内容・範囲については、大きく言って差止め請求と損害賠償請求に分けて考えることができる。

差止め請求については、約款中の不当条項の使用の差止め、不当表示や不当な勧誘行為の差止め、ともに導入すべきと考える。前者は、具体的には消費者契約法第8~10条に該当する条項の差止めであるが、本来無効であるにもかかわらずこうした条項を使用している場合に、消費者組織が差止めを請求し得るとすることは当然であり、必要性に疑問のないところである。後者についても、従来大規模な消費者被害となった豊田商事、八葉グループなどの事件はいずれも不当な勧誘行為によるものであり、消費者の誤認による被害の拡大を防止する意味合いから必要性は高い。

損害賠償請求については、少額多数被害への対応という意味からも、違法・不当な行為による利得の返還を通じた市場メカニズムの貫徹という意味からも重要である。しかし、アメリカ型のクラスアクション、ドイツ・台湾型の債権譲渡によるものなど、諸外国でもいくつかの類型があり、検討すべき事項も多い。十分に検討を積み重ねることが適切である。

[2] 適格団体の要件

団体訴権を行使することができる消費者組織については、消費者の利益を代表するに相応しい組織でなければならず、その意味で適格団体に関して一定の要件を設けることが必要である。他方、過度に要件を厳格化することも、市場の監視・チェックに向けた消費者組織の取組みが制限されるという意味で問題がある。

また、適格団体に該当するか否かを判断する主体についても、訴訟の都度裁判所が判断する方法と、認可・登録等により行政が予め判断しておく方法などが考えられる。後者の方法は、団体訴権制度に相応しい団体を事前に峻別し、明らかにしておくことで、日常的な警告活動の便宜につながるという意味で長所もあるが、認可・登録等を通じた行政の介入により消費者組織の自立性を損う恐れもある。

このように、適格団体の要件については、要件の具体的内容、判断の方法などをめぐって詳細に検討すべき問題を含んでいる。消費者組織、研究者などを交えた上で、消費者組織の実情を踏まえながら、早期導入に向けて詰めた検討を行うことが必要である。

(2)資金援助

日本の消費者組織は、欧米の消費者組織に比べて組織基盤が脆弱で、社会的存在感も弱いといわれている。その問題の根源の1つとして財政的基盤の弱さがあるが、消費者組織が高い専門性と行動力をもって、求められる社会的役割を十全に果たしていくためには、財政的基盤の確立が不可欠である。

財政的基盤を確立するためには、会費・寄付などによる安定収入の確保、財政基盤となり得る事業づくりなど、消費者組織の主体的取組みが必要であることは言うまでもない。しかし、それのみによって財政基盤を確立することは難しい面があり、公的な資金援助が必要である。特に団体訴権制度が導入され、訴訟を通じて市場の監視・チェック機能を担っていく場合には、訴訟費用や弁護士費用などの資金的裏付けが必要となるため、公的な資金援助の必要性は大きい。

他方、公的な資金援助を検討する際に、消費者組織の自立性を阻害しないよう留意する必要があることは言うまでもない。環境、国際協力などの分野において、行政、経済界、NPO・NGOとのパートナーシップという考え方が見られることは先に述べた通りである。こうした考え方のもとで、国際協力の分野では外務省のODA予算の中から、環境の分野では環境事業団の地球環境基金から、国内外のNPO・NGOなどが行う事業に対する資金援助が行われている。こうした事例を参考にしつつ、資金援助のあり方について消費者組織の意見も反映しながら検討していくことが求められる。

(3)人材育成の支援

日本の消費者組織は、人的基盤の上でも問題を抱えている。現在、環境保全活動やNPO・NGOによる様々な分野の市民活動には、若い世代が積極的に参加してきていると言われている。これに対して、消費者組織においては人材が固定化・高齢化する傾向がある。その背景には、財政基盤の脆弱さもあって、高い専門性と行動力をもって社会的存在感を示す活動を十分に創りあげられていないという問題がある。

消費者組織を担う人材の育成は、もちろん消費者組織自身の主体的な取組みによるべきものであるが、消費者教育に関する施策を通じた人材育成の支援策についても検討する必要がある。消費者教育については、『消費者教育に関する意見』(2003年2月3日付)で既に述べた通りであるが、特に社会教育や大学教育の充実が人材育成の上でも鍵となることは付言しておく。また、消費者教育の抜本的充実によって自覚的な消費者を増やしていくことが、消費者組織自身の活動の充実とあいまって、消費者組織の裾野を広げていくことにもつながると考えられる。こうした意味からも、消費者教育の重要性について再度指摘しておきたい。

(4)情報提供

2で述べた3つの機能のいずれにおいても、情報が重要な意味を持つことは言うまでもない。消費者教育や消費者への情報提供においてはもちろんのこと、政策形成過程への参画においても現状と課題の認識、諸外国の状況などに関する情報は不可欠であるし、市場のチェック・監視機能も消費者被害・トラブルの最新の状況を把握することなしには果たし得ない。

これらの情報を入手するにあたっては、消費者組織自身が弁護士・研究者・専門家などによる幅広い人的ネットワークを形成することがまずもって重要であるが、国や地方自治体など公的機関からの情報提供も必要である。国民生活センターや消費生活センターの消費生活相談に関する情報について、統計的なデータだけではなく、被害の拡大防止という観点から注目すべき特徴的な動向を含めて提供することが必要である。また、政策形成過程への消費者組織の参画という見地からは、消費者行政を所管する部局が持つ調査資料などについても、消費者団体に対して積極的に提供していくべきである。
 

以  上