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日本生活協同組合連合会オフィシャルサイト

2003年02月04日

日生協「消費者教育」に関して意見表明

日本生協連(本部:渋谷区、竹本成徳会長)の田中尚四副会長は、国民生活審議会委員をつとめていますが、2月3日に開催された内閣府・国民生活審議会消費者政策部会において、「消費者教育」と「消費者政策における環境配慮」のテーマが検討されましたので、日本生協連とし「消費者教育」に関して以下の意見を提出しました。


2003年2月3日
 

消費者教育に関する意見
 

日本生活協同組合連合会
副会長  田中尚四
 

1.消費者教育に関する基本的考え方

(1)21世紀型消費者政策における消費者教育の重要性

21世紀型消費者政策は、昨年12月に公表した本部会の中間報告において明らかにされている通り、(a)消費者を単なる保護の対象ではなく「自立した主体」として位置付けること、(b)市場ルールの整備を図ること、(c)情報公開と事業者のコンプライアンス経営を進めることの3点を基本的な理念としている。

その中で、消費者は、商品・サービスや事業者自身に関する情報をもとに自らのニーズとの関係を主体的に判断し、商品・サービスの選択を通じて市場に生き残るべき事業者を選別していくことが期待される。トラブルを生じた場合にも、各種の紛争解決手段を通じて自らの権利を実現するために行動することが求められる。つまり、21世紀型消費者政策においては、消費者がこうした行動を通じて自らの権利を守り、実現することが、市場メカニズムを通じた適正な資源配分を実現する上での消費者の役割として位置付けられることになるのである。消費者がこうした役割を果たしていく上では、中間報告に盛り込まれた各種の施策を通じて環境整備を図っていくことが必要不可欠であるが、それに加えて、消費者自身が権利の担い手になっていくことができるよう、消費者教育を抜本的に充実しなければならない。

(2)消費者教育の目指すべき方向性

消費者教育は、単なる知識の注入に留まらず、自らのニーズを明確にし、社会通念に即した一定の価値観のもとに、情報を収集・選択・整理して主体的に判断するという、自立した市民としての行動様式を身に付けることが目的とされなければならない。その中では、環境に配慮したくらし方という観点も当然に含まれるのであって、環境教育と有機的に結合した、縦割りでない一体的な取組みが求められる。こうした行動様式は、生活という局面では誰もが消費者としての行動を求められる今日の経済社会のもとで、まさに生活していくためのスキルとして必要不可欠である。さらに、消費者教育を通じて醸成される主体性を持った生活態度は、職業、政治などさまざまな領域において、まさに「市民」としての活動を可能とする基礎的な力となっていくことが期待される。

現在、消費者教育は学校教育・社会教育の双方において取り組まれているほか、事業者団体や消費者団体など民間での取組みも行われているが、後述するようにさまざまな問題が指摘されている。これらの問題の背景には、消費者教育の重要性は折にふれて強調されるものの、政策的な位置付けが弱いために実効的な施策が乏しいという事情がある。新たな社会システムの担い手たり得る消費者を育成する実効的な消費者教育の仕組みを構築していくためには、消費者政策における消費者教育の位置付けを強化するとともに、教育政策の中で消費者教育をしっかりと位置付けることが必要である。その上で、理念・体系の整理、情報提供・研修の強化、民間における取組みの促進、各機関の整備・連携など総合的な取組みを、中長期的な展望を持ちながら積み重ねていかなければならない。

2.具体的施策に関する検討事項

(1)学校教育の充実

学校教育における消費者教育は現在家庭科を中心に行われているが、時間的余裕がない、知識の習得に偏っている、教育現場に資料や情報がうまく届いていない、教員の研修機会が十分でない、などさまざまな問題が指摘されている。新たに設けられた「総合的な学習の時間」の中で取り上げることも期待されているが、新学習指導要領の例示が「国際理解、情報、環境、福祉・健康など」とされ、消費者教育が含まれていないことから、実践の機運は必ずしも高くない模様である。

今年度から施行されている新学習指導要領では、小・中・高等学校を通じて「生きる力」「自ら学び自ら考える力」をはぐくむことが強調されている。消費者教育が自立した市民としての行動様式を身に付けることを目的とすべきである旨は既に述べた。そうした意味合いから言えば、学校教育において消費者教育は大きな位置付けを与えられるべきである。

現在、教員免許を取得するためには教職・教科に関する科目のほか、憲法・体育・外国語・情報機器操作の4科目が必修とされている。21世紀型の新しい経済・社会のあり方を実現していく上での重要性から見て、消費者教育をこの必修科目の1つとして加えることが適切と考える。これにより、消費者問題・消費者教育に関する知識やマインドをもった教員を養成することができ、学校教育における実践を充実する効果が期待できる。教官の確保など現実的な問題から直ちに実施することが困難であるならば、一定の準備期間を設定することで、その間に各大学で講座設置の準備を進めるよう促すことも考えられる。

加えて、現職の教員に対する情報提供や研修の機会の供与が不可欠である。内閣府が2001年3月に実施した高等学校教員対象の調査によれば、かなり多くの学校で消費者教育が実施されている模様であるが、実施していない教員からは「消費者教育の指導をするための研修に恵まれない」ことが理由の1つに挙げられている(42.4%、複数回答可)。自治体によっては教員向けの研修が行われている場合もあるが、消費者行政関連部局からの働きかけにより開催されるケースが多く、教育委員会が企画するケースは少ないと言われている。教育行政側の自主的な取組みを促すことにより、研修の機会を増やしていくことが求められている。情報提供についても、(財)消費者教育支援センターでは教材、指導法、優れた実践例などに関する資料を揃えており、これを一層活用すべく情報提供を強める必要がある。

(2)社会教育の充実

社会教育における消費者教育については、各地方自治体の消費者行政の施策として、消費生活センターの消費者講座などが実施されているが、印象としては十分な広がりをつくれているとはいいがたい。他方、社会教育行政が所管する狭義の社会教育の中で消費者教育が展開される機会はきわめて稀だと言われている。実際、文部科学省による1999年度社会教育調査の結果によれば、教育委員会や公民館で実施されている学級・講座の内容は、教養の向上に関するものと体育・レクリエーションが大半を占めている(教育委員会63.7%、公民館74.0%)。社会教育行政において講座の企画を行うのは社会教育主事であるが、社会教育主事資格を取得するために必要な社会教育主事講習では、特殊講義「現代社会と社会教育」の1選択科目として消費者教育が組み込まれているものの、後述する大学における消費者教育の現状に照らせば、現実にどのくらいの大学で講座が設置されているかは疑問である。

社会教育の分野での消費者教育を抜本的に充実する上では、消費者行政による取組みだけでは限界があり、狭義の社会教育行政における取組みを推進することが必要不可欠である。講座の開催のほか、消費生活センターなどで最近積極的に取り組まれている講師派遣(いわゆる「出前講座」)を含め、積極的な取組みが期待される。そのためには、社会教育の重要な要素として消費者教育を位置付けるとともに、現場において企画の立案を行う社会教育主事が、消費者教育に関する問題意識を持つことができるよう、環境を整備する必要がある。少なくとも社会教育主事講習を実施する際には、消費者教育に関わる講座を開設することを義務づけるべきである。

(3)民間における取組みの充実と情報提供の強化

消費者教育を充実する上では、事業者・事業者団体や消費者団体などが果たす役割も重要である。各組織においては、どのような形で消費者教育に取り組むかについて積極的に検討することが求められるが、行政としても各組織における取組みをサポートし、促進するための施策について検討しておく必要がある。

事業者・事業者団体においては、グローバル化、バイオテクノロジーやITをはじめとする科学技術の進展などによって、経済・社会が急激に変化する中で、最新の知見を生かした消費者への情報提供を行う役割が期待されている。現在、学校教育向け教材や一般消費者向け情報提供資料の作成、従業員向けの消費者教育、ホームページを通じた情報提供などに取り組んでいる例が見られる。(財)消費者教育支援センターでは消費者教育教材資料表彰を行っているが、事業者・事業者団体による消費者教育を奨励する企画を工夫し、その社会的認知度を向上させることによって、事業者・事業者団体の自主的取組みを一層促進することが考えられる。

消費者団体、市民団体や、弁護士会などの関連専門家組織においては、講習会・学習会の開催や講師の派遣などを通じて、広く学習の機会を提供する役割が期待される。消費者による自主的な学習の取組みを支援する上では、講師の派遣を行っている組織の紹介や、教育スキルを備えた講師を育てるための講師養成プログラムの開発などの施策が考えられる。

また、広く一般消費者向けの情報提供を充実する見地から言えば、行政の取組みが重要であることは言うまでもないが、マスメディアに期待される役割も大きい。マスメディアは社会の公器として、商品やサービスの選択に資する情報、消費者問題の現状に関する情報、消費者関連の政策課題に関する情報など、消費者を取り巻く各種の情報を発信し、消費者の認識の向上と深化を促すことが望まれる。

(4)推進体制の確立と理念・体系の整理

先に述べた通り、消費者教育を抜本的に充実する上では、現状から言って中長期的な展望を持った取組みの積み重ねが必要であり、消費者教育の推進に関して計画化し、進捗状況を把握しながら対策を講じていくことが求められる。現状では、そうした推進体制が十分つくられているとは言えない。現在、地方自治体、国民生活センター、消費者団体など以前から消費者教育に取り組んできた組織に加え、金融広報中央委員会、事業者団体などでも消費者教育に取り組み始めているが、各組織間の連携の弱さが指摘されている。消費者教育に関する理念や体系が未整理であることを背景として、各組織での取組みの間に不整合が生ずることに対する危惧も、一部からは表明されている。

こうした状況を改めるためには、消費者教育の推進に関する行政の体制を整備し、そのもとに消費者教育に関わる各種機関・組織の連絡協議会を設置して状況を共有しながら、調査、体系化、計画化を進めつつ消費者教育の推進に関する施策を検討・実施していくことが適切である。私は、昨年12月24日に開催された第13回部会において、鍋嶋委員、高委員とともに、「消費者政策委員会」(仮称)の設置を提言したが、こうした横断的行政機関の中に消費者教育の推進に関わるセクションを設けるとともに、教育政策を担う文部科学省にも消費者教育に関するセクションを設けるべきである。

また、学校や各組織での消費者教育をサポートするための機関として(財)消費者教育支援センターが設置され、教材の作成・普及、実践例の普及、講師の派遣などを行っているが、財政や体制の裏付けが弱いため成果を十分に普及しきれていない。消費者教育の充実の上で、同センターが行っている事業は今後一層重要な意味を持つため、体制の抜本的強化と財政支援が必要と考える。

終わりに ~鍵となる大学教育の充実~

以上、学校教育、社会教育、推進体制という切り口から検討事項を述べてきたが、最後に、消費者教育の抜本的強化の上で大学教育が大きな鍵となることについて強調しておきたい。

大学教育における消費者教育の現状については、(財)消費者教育支援センターが実施した『高等教育機関の消費者教育-全国大学シラバス調査-』の結果から、ある程度うかがうことができる。同調査では、全国の教育系大学・家政系大学203校を対象に、講義名に「消費」を含む講義、シラバスの文中に「消費者」を含む講義をピックアップしているが、いずれかの条件を満たす講義を開設している大学は109校と半数程度に留まっている。しかも、その中にはマーケティングの視点からの消費者行動論に関する講義、食物・被服などの専門的講義、概論講義なども含まれており、正面から消費者問題や消費者教育を取り上げた講義は必ずしも多くないように見受けられる。他の大学については資料がないが、伝統的に消費者教育が家政学の流れから形成されてきていることから言って、状況はより芳しくないことが推測される。

大学は、専門的学芸の教授・研究機関であり、初等・中等教育の担い手となる教員の養成課程を担う機関であり、一定の専門的知識を備えた人材を社会に送り出す機関でもある。したがって、大学における消費者教育を充実することは、消費者問題・消費者教育に関する研究の深化、学校教育における消費者教育の充実、消費者問題に関して一定の知見を持つ人材の社会への提供、自覚的消費者の育成などに関して重要な意味を持つのである。そうした意味から、消費者教育の抜本的充実・強化に向けた検討において、大学における消費者教育をいかに充実するかという視点を持っておくことは、極めて重要であると考える。

消費者教育を教員免許の必修科目とすることや、社会教育主事講習において消費者教育に関する講義の開設を義務づけることは、大学における消費者教育を充実することにつながる。さらに、消費者問題・消費者教育に関する知見を広げ、担い手たり得る人材を増やすことによって、消費者問題・消費者教育に関する実践と研究の深化を促す。さらに、実践・研究の蓄積・交流を通じて理念・体系の整理が進むことによって、消費者教育を含む消費者政策の一層の充実に貢献することが期待できる。こうした望ましい循環をつくっていく意味からも、積極的な検討をお願いしたい。
 

以  上