いわて生協は、被災地での買い物支援の取り組みとして、2012年6月18日から移動店舗「にこちゃん号」の運行を開始しました。
岩手県の太平洋沿岸部は、津波による大きな被害を受けました。中小規模の仮設住宅では、買い物の場がなく、不便なくらしを強いられている方々が、まだまだ多数いらっしゃいます。また、日ごろ頼りにしていた徒歩圏の店舗が津波によってなくなり、日常の買い物に苦労している住民も多いのが現状です。
いわて生協が移動店舗を導入するのは初めてのこと。これまでは商品案内カタログを見て注文する宅配事業を柱に、被災された方々の生活再建に力を尽くしてきましたが、高齢者を中心に「商品を見て購入したい」「宅配の注文のしくみになじめない」という声や、宅配利用者から「生魚、惣菜も扱って欲しい」といった声があがっていました。
「にこちゃん号」は、岩手県宮古市内に点在する17カ所の仮設住宅(680戸)を巡回します。コースは2つあり、月・水・金曜日の「北コース」と、火・木・土曜日の「南コース」で、それぞれ週3回訪問します。
いわて生協常務理事・店舗事業管掌の阿部 慎二(あべ しんじ)さんは「社会福祉協議会の方々、自治会長さん、組合員さんからそれぞれ情報をいただき、コースを組み立てました。復興に向けてがんばっている方々の足を引っ張らないよう、被災した地域商業者の仮設店舗がある場所は避けました」と、地元の声を聞きつつ、復興の妨げにならないようコース設定したことを明かします。
移動店舗運行初日の6月18日、拠点となっているいわて生協のお店ベルフ西町を出発した「にこちゃん号」は、1カ所目の停車地として愛宕(あたご)小学校仮設団地付近の私有地に停車。到着を待ちわびていたかのように、多くの人がすぐに集まってきました。この辺りは、近所にあった小さな商店が津波の影響で閉店となってしまったため、近隣の住民も買い物に困っている地域です。
付近に住む80歳になる女性は、「私は車の運転ができないので、買い物のときはタクシーを使っています。生協さんが週に3日も来てくれると本当に助かります」と笑顔でお買い物。
また、仮設住宅以外にお住まいの女性は、「仮設住宅の中には移動販売車が来ていますが、私たち地域住民はなかなか入って行きづらいもの。ですから、みんなが利用しやすい場所に来てくれるのはありがたいです」と話してくれました。
いわて生協は、仮設住宅の方と地域の方々との交流が生まれることを願って、この場所を選んだそうです。
2カ所目は愛宕公園仮設住宅の駐車場。ここでも「買い物が不便だから助かるわ」と、仮設住宅にお住まいの方の声が聞こえてきました。
「にこちゃん号」の取り扱いは、生鮮品から日用雑貨まで、約600品目。特長は「鮮度と惣菜の品揃え」。約6割が生鮮品です。
沿岸部に住んでいた方は魚を1匹丸ごと買う習慣があるため、真あじや真だら、どんこ、イカなど、鮮魚の丸物も用意しました。惣菜は日ごとに品揃えを変えるほか、独自のカタログを用意して、刺身や寿司、オードブルなどの特注にも対応します。
「にこちゃん号」の周囲には、レジに並んでいる人たちに冷たいお茶を配るなど、奮闘している組合員さんの姿がありました。「先週は4日間『にこちゃん号』のお知らせ活動をしました。地区ごとに7〜8名でチラシを配りながら、全戸を訪問して回ったんですよ」と話すのは、いわて生協・宮古コープ※リーダーの佐々木 敏枝(ささき としえ)さん。想像以上の人出に驚きながらも、充実した表情を見せていました。
宮古コープ理事の香木(こうのき)みき子さんも、「『にこちゃん号が来たよ!』と皆さんの笑顔が広がっていくように、私たち組合員もしっかり協力していきたいと思います」と話してくれました。
※いわて生協では、地域に密着した活動を進めていくために、県内を16の地域(コープ)に分けて組合員活動を行っており、宮古地域を「宮古コープ」と呼んでいます。
組合員の念願かなってスタートした「にこちゃん号」。いずれは、けせん(大船渡市、陸前高田市)・釜石地域でも運行を検討しており、2号車を走らせるための募金活動もスタートしました。また、「にこちゃん号」では対応できない宮古市・山田町の仮設住宅64カ所(2,078戸)をカバーするために、いわて生協の店舗、マリンコープDORAとベルフ西町行きの「無料お買い物バス」の運行も、7月9日から開始しました。
阿部常務理事は、「移動店舗は過渡的な存在と考えています。最終の目的は『皆さんが以前のくらしを取り戻すこと』。ですから私たちは『にこちゃん号』が役割を終える日が少しでも早く訪れることを願っているのです」と語ってくれました。