福島県双葉町(ふたばまち)などの皆さんが避難している埼玉県加須(かぞ)市の旧騎西(きさい)高校では、さいたまコープも協力し、食材の提供や炊き出しのほか、子育て応援の子育てサロンやイベントなどを行っている。毎週の炊き出し活動の中心を担うのは「避難所応援隊」。組合員、職員、OB職員など約100人がボランティアとして登録している。
さいたまコープ参加と
ネットワーク推進室
地域ネットワーク部長
福岡 和敏さん
「地域と関わることの大切さを、避難所の方から改めて教わりました。若い職員たちにもいい刺激になっていると思います。」
「地域に関わり、地域で役割を発揮することの大切さを、避難所の人たちから改めて教えていただいた気がします。若い職員たちにも、自分たちの仕事が地域に関わっていたんだという実感を与えてもらっています。われながら、生協ってなかなかやるじゃないかと思いました(笑)」
と語る、さいたまコープ・参加とネットワーク推進室で地域ネットワーク部長を務める福岡 和敏(ふくおか かずとし)さんにお話を聞いた。
「『生協さん、頼みがあるんだけど……』と、避難所で声を掛けていただくことが多くなりましたね」と福岡さんは笑顔を見せる。
さいたまコープでは“つなげよう 笑顔”をスローガンに掲げ、地震発生以来、義援募金の取り組みや、被災地への職員の派遣、ボランティアの派遣など被災者支援に力を注いでいる。しかし、旧騎西高校避難所での支援では、最初から100%の力を発揮できたわけではなかった。
「初めは何をしていいのか分からない状態だったんです。でも、とにかく避難所に足を運んで、生協にできることを考えました。すると、お母さんたちの間で『(栄養バランスが崩れたことで)口角炎になる子どもが増えた』『いつも高カロリーのお弁当では食べにくい』『野菜やさっぱりしたものも食べたい』などの声が多いことが分かってきました。そんな声に応えて、野菜が多く入った具だくさんのみそ汁の炊き出しをしてはどうかと考えました」
そこで、旧騎西高校避難所内に設置されている双葉町役場出張所に提案したところ受け入れられ、2011年4月21日から本格的な支援がスタートした。
「炊き出しの配膳など、直接双葉町の人たちと触れ合う中で、みそ汁の味付けが薄いとか、福島の郷土料理が食べたいなどのさらなるニーズが分かってきました」
そこで、避難所の皆さんにも手伝ってもらうことを思い付く。郷土料理は郷土の人間でなくては分からないし、調理に参加してもらうことはコミュニケーションを取るには絶好の機会と考えたのだ。
「郷土料理を教えてもらったり、調理に加わってもらえたら、と思いました。イカにんじん(スルメとにんじんで作る松前漬けのようなもの)やきのこ汁など、『福島の味』を教えてもらい、皆さんに食べていただきました。もちろん大好評です」
福岡さんは満面の笑みでそう語った。
さいたまコープでは、このほかにも避難された皆さんの子育て応援として、旧騎西高校での「おやこひろば」や、騎西コミュニティセンターでの「子育てサロンふれあい広場」にも協力している。
こうした中で、日本ユニセフ協会も参画して、牛乳、野菜飲料、ヨーグルトやパンなどの食料品や、運動靴などの提供、JAグループさいたまによる野菜の提供や炊き出しの協同、子育て支援のNPOの協力などが次々と決まっていった。
さいたまコープ地域ネットワークでは、双葉町、加須市の職員と週に一度の割合でミーティングを実施し、避難所内の生活についてニーズを把握し、どんなことができるかを話し合っている。
その中で、避難所の子どもたちが通う騎西小学校の遠足や学校行事のお弁当を、コープ北本店・コープ深谷店の職員ボランティアが作ってお届けするなどに取り組んだ。
また、「自分で食品を選んで子どもたちに食べさせたい」というお母さんたちの要望により、法人登録(※1)での宅配や「お買い物代行サービス(あったまる便※2)」の利用も始まった。
※1 個人ではなく、避難所や保育所単位などでの登録制度
※2 電話で注文を伺い、店舗で商品をそろえご自宅まで商品をお届けするお買い物代行サービス。
7月17日の日曜日には、「避難所応援隊」による昼食の炊き出しのほか、さいたまコープの組合員や職員ボランティアによるおにぎりコンテスト・交通安全教室・ふれあい喫茶、“NPOしゃり”や“NPO所沢市学童クラブの会”の皆さんの協力によるあそびのひろば、などのイベントが開催された。
昼食炊き出しのメニューは「冷汁」と冷やしトマト、デザートにはヨーグルトが用意された。だし汁にきゅうり、みょうが、青しそ、ツナ缶詰を入れ、氷で冷たくした「冷汁」は熱中症対策にもぴったりの一品だ。この日は35℃を超える猛暑日だったこともあり、大好評だった。
野菜はJAグループさいたま、ヨーグルトは日本ユニセフ協会から提供された。
組合員による「ふれあい喫茶」では、リラックス効果があるとされるラベンダーのポプリを作る教室を開き、参加者はコーヒーや紅茶を飲みながら、好きな色のフェルトを組み合わせてポプリ袋を作っていた。
「あそびのひろば」では昔懐かしいベーゴマも登場し、子どもたち以上に熱中する高齢者の方の姿も。
「手作りのイベントです。組織を越えていろんな人たちとつながっているからできることなんです」
楽しそうに過ごす参加者を眺めながら、福岡さんはそう語ってくれた。
福島県内では仮設住宅の建設が進んでいるが、放射線の影響を考えて居住をためらう人も多い。特に小さな子どものいる保護者の不安は大きく、仕事のあるお父さんだけが福島に残る家族もある。こうして離れ離れになってしまった家族への支援も、今後の課題の一つだ。
福岡さんは、「七夕にはボランティアが笹飾りを作り、子どもたちが短冊を書いたのですが、願い事は『Jリーガーになりたい』でも『ケーキ屋さんになりたい』でもなく、『双葉町へ帰りたい』でした。こうした子どもたちの心のケアや、勉強の遅れの回復などの支援も必要になります」と話す。
課題はまだある。埼玉県内で「避難所以外」に住む方々の支援だ。旧騎西高校には多くの皆さんが集まり、役所の出張所もあるので情報も入手しやすいが、知人宅やアパートに身を寄せる人もいる。
「双葉町という地域が、丸ごと高校だった建物に入っている状態ですから、通常見落としがちな地域ニーズを引き出すこともできます。でも、それ以外の人たちは孤立しがちです。今後は『避難所以外』の方々に、行政や他団体と協力して支援ネットワークを広げていくことが必要です。生協の組合員施設を利用していただいたり、宅配などで生協とつながりを持っていただくことで、『避難所以外』の支援も進めたいと思っています。まだまだ課題は山積みですが、みんなで協力して乗り越えていきたいと思います」
福岡さんから、力強いパワーと意欲を感じた。