国内のパンメーカーが製造、販売している食パンの一部に、製造時に「臭素酸カリウム」を使用した製品があります※。食品衛生法では、臭素酸カリウムの使用量や「最終食品の完成前に分解または除去しなければならない」ことが規定されており、基準を遵守して使用されているものと考えます。
※ | 2024年11月追記:臭素酸カリウムを使用した製品の出荷は終了したとの情報がありました。 |
一方、日本生協連では食品添加物の自主基準でCO・OP商品には臭素酸カリウムを意図的には使用しないことにしています。
これについて現時点での考え方をQ&Aで説明いたします。
パンを焼く時の生地に臭素酸カリウムを添加すると、小麦粉のたんぱく質に効果的に作用し、パンの品質(膨らみ方や食感)が向上するといわれています。
食品衛生法の下で以下のような使用基準が定められています。
※公定試験法で「検出せず」が求められる。検出限界は0.5 ppb(=0.0005 ppm。パン1 kgあたり0.0000005 g)
「食品の加工の際に添加されるものであって、食品の完成前に除去されるもの」は「加工助剤」に該当します。食品表示法上、加工助剤は、食品添加物としての表示は不要とされています。
1980年代に発がん性が指摘され、日本における研究ではラットに対して発がんのイニシエーター(遺伝子そのものを傷害する作用)、プロモーター(発がんを促進する作用)の両方の作用を有するという結果が報告されています。このような知見から、臭素酸カリウムは遺伝毒性発がん物質であると考えられます。
一方で、パンを焼成する過程で熱により分解が進むということも考慮し、1982年に使用基準がA2のように改正され、現在に至っています。
JECFAでは、当初1989年の第33回会合においては「ADI*1は設定できず、最終食品に残留すべきでない。パン製造用小麦粉への使用量は60 ppm(1 kgあたり0.060 g)以下」という結論でしたが、その後1992年の第39回会合では、追加された安全性試験の結果に基づき、「遺伝毒性発がん物質」であると結論されました。さらに、「小麦粉への60 ppm以下の使用であっても高感度な分析を行うとパンの中に微量の残留が見られる*2」ことが明らかになったため、「臭素酸カリウムの小麦粉処理剤としての使用は適切でない。パン製造用の小麦粉処理のための使用量を取り下げる。ビール製造への使用はデータ不足から検討できない。」という評価に変わりました。
この評価結果は、1995年の第44回会合においても再確認されています。また、以後はこの評価について見直しや追加の論議はされていません。
*1: | 許容一日摂取量~その物質を一生涯にわたって毎日摂取し続けても、健康への悪影響がないと考えられる1日当たりの物質の摂取量です。 |
*2: | この後、日本では2003年に食品衛生法の下でさらに高感度な分析法が定められました。臭素酸カリウムを使用する場合、この分析法で検出されないことが求められます。 |
参考:内閣府食品安全委員会ファクトシート「臭素酸カリウム」(2007年)
過去の基準(2013年4月まで運用)でも臭素酸カリウムは不使用としていましたが、2011年から2012年にかけ、改めてCO・OP商品における化学物質のリスク管理政策について論議し、基本的考え方の一つとして「遺伝毒性発がん物質は、意図して食品に使用しない」ことを決めました。
政策検討の過程では、国内のパンメーカーがパンに使用している臭素酸カリウムについて、残留は検出限界未満であり実際の健康リスクは非常に低いことを共有しました。
しかし一方で
などの意見が出されました。そのため、リスク管理政策の結論に基づき2013年4月に改定した自主基準においても、CO・OP商品では「不使用添加物」としました。
イーストフードとして使用が認められている添加物は全部で18品目あり、これらのものを複数混合した「イーストフード製剤」のかたちで流通していますが、この18品目中には臭素酸カリウムは含まれていません。したがって、イーストフードと臭素酸カリウムとは別のもので、日本生協連では、イーストフードそれ自体の適正な使用については、安全性上問題はないと考えています。
なお、かつて、(1つの製剤で、酵母への栄養効果と小麦粉改良効果の両方を発揮させる目的で)イーストフード製剤と臭素酸カリウムの粉末を混合した製パン改良剤が流通していた時期がありました。このような製剤を使用した場合、臭素酸カリウムは加工助剤として表示が免除されていますので、表示上は「イーストフード」とのみ記載されます。
したがって、このような製剤の組成や表示の仕組みを理解していて、かつ臭素酸カリウムに対する懸念を持っていた消費者は、「イーストフード」と表示されている全てのパンに対してマイナスイメージを抱いてしまった可能性があります。
<この件のお問い合わせ先>
日本生協連安全政策推進室